日本企業が今も根付くアマゾンの理念に学ぶ事 情報社会の次に来る「Society5.0」へ臨むために

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ベゾスは、「このような状況にあっても、まだDAY1でしかない」と、「2019年 株主レター」を締めくくっています。「DAY1」とは、「(創業して)まだ1日目」という意味です。

ベゾスは、講演やインタビューなどさまざまな機会をとらえても、「DAY1」について語っています。「DAY1のバイタリティーを保つ」ことが極めて重要ということです。対照的に「DAY2」も、創業当時の精神を忘れ衰退していく「大企業(病)」を非難する文脈で、やはりベゾスがよく口にする言葉です。「DAY1」は、アマゾンの公式ブログのタイトルにもなっています。

また、ベゾスのデスクがある建物には、必ず「DAY1」という名前が付けられています。それほどまでにベゾスがこだわっている、アマゾンを理解するうえで最も重要なキーワードの1つが「DAY1」なのです。

毎年添付される「1997年 株主レター」

そして「2019年 株主レター」に続いて添付されているのが、「1997年 株主レター」です。毎年公開されるベゾスの株主レターには、必ず、この「1997年 株主レター」が付けられています。23通目となる今回も、例外ではありません。

1997年と言えば、アマゾンがナスダックに上場した年です。また同年には、売上高では前年度比800%以上増という素晴らしい業績もあげています。

『2025年のデジタル資本主義: 「データの時代」から「プライバシーの時代」へ』(NHK出版)。書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします

なぜ、毎年、株主レターに「1997年 株主レター」が添付されるのか。1994年に創業・設立したアマゾンが大きな成長を達成した節目の年であるから、ではありません。それは、ベゾスがそこで「DAY1」を唱えているからです。

上場を果たし成長を達成した状況にあっても、まだ「創業して1日目」にしかすぎない、その創業のバイタリティーを保たなければならない、さもなければ衰退するのみ、ということです。ベゾスは、この「DAY1」の精神を、毎年株主に向けて表明しています。創業時の精神を決して忘れないという決意が込められたものが、添付される「1997年 株主レター」なのです。

アマゾンのような時価総額で世界トップを争う企業、また新型コロナウイルスの感染拡大に対して社会に対して大きな貢献ができるほどの企業であっても、「(創業して)まだ1日目」「常にDAY1」だと言っているのです。こうした「DAY1」の精神は、初心に返るという意味においても、日本や日本企業がデジタル化を進化させ、Society5.0を実現していくうえで、必ず銘記しなければならないものだと言えるでしょう。

田中 道昭 立教大学ビジネススクール教授

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たなか みちあき / Michiaki Tanaka

シカゴ大学経営大学院MBA。専門は企業戦略&マーケティング戦略およびミッション・マネジメント&リーダーシップ。三菱東京UFJ銀行投資銀行部門調査役、シティバンク資産証券部トランザクター(バイスプレジデント)などを経て、現在は株式会社マージングポイント代表取締役社長。主な著書に『「ミッション」は武器になる』(NHK出版新書)、『アマゾンが描く2022年の世界』(PHPビジネス新書)、『GAFA×BATH 米中メガテック企業の競争戦略』(日本経済新聞出版社)など。

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