地位の低い人ほど、寄付をしがちな根本理由 社会の平等度の違いで金持ちの行動も変わる

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社会的な地位の高い人ほど、他人への思いやりに欠けた行動をとるように見えるというピフの主張には、説得力のある解説が2つなされている。

1つは、自分の地位を最大化するモチベーションを強く持っている人は、その性格や気質からして、同時に反社会性が強い可能性があるということだ。もう1つの解説は、私たちは一般的に社会階層の下の人間に対して尊大に振る舞う可能性があるというものだ。

上流階級の人間がその他の人々と異なるのは、上流階級ほど、彼らが配慮する必要がないと考える格下の人間の数が多くなるせいで、その尊大さが目につくということなのかもしれない。

しかし正確な解説は、上流階級の持って生まれた特性というより、不平等の拡大によって、お金持ちで社会的地位も高い人間が身勝手な行動をする風潮が生まれていることだ。

ピフの観察や実験はすべてアメリカで行われた。現時点では、お金持ちになるほど反社会的な行動が強まる傾向は、不平等が小さな社会ではあまり目立っていない。

研究者によれば、アメリカよりもはるかに平等な社会であるオランダ、ドイツ、日本では、お金持ちは貧しい人々と同じくらいに信頼がおけて、寛大であるとされている。2015年の研究の新たな発見によれば、アメリカのお金持ちは不平等が高い州ほど寛大さが失われていく傾向がある。

全米対象の調査で、参加者に他人への寄付の機会を与えて、その行動を調べるものがある。それを分析した研究者によれば、不平等な州のお金持ちは所得の低い人に比べて寄付に消極的であり、逆に不平等が大きくない州のお金持ちは積極的だった。

研究者たちはまた、参加者の出身州の経済的格差を相対的に高い、あるいは低いという2つの場合に分けた実験も行った。それによると、不平等の高い州に住んでいると告げられたお金持ちは所得の低い人に比べケチになり、平等が進んだ州に住んでいると告げられたお金持ちはそれほどケチでないことがわかった。

共感を取り戻すことで改善への希望が得られる

私たちは本書で、不平等のせいで、いかに人々が他人よりも自分を立派に見せざるをえなくなっているか、自己愛という現代の伝染病は、いかに不平等の拡大を反映しているかなどといった現実を証明する論拠を追求した。

競争が激しい不平等な社会で生きていくには、誇大妄想を抱き出世競争に邁進することが唯一の生き残る道であるように私たちに思い込ませてしまう。しかし自己顕示や自己愛は大きな不安を覆い隠してくれる一方で、人々を幸福や充実した人間関係から遠ざける証拠も見つかった。

共感は人間の社会交流や幸福感の礎である。共感が世界を満たせば、人間関係、夫婦間のいざこざ、仕事や近所とのトラブル、政治の行き詰まり、国際紛争はすべて解決する。不平等の抑制によって共感を再び取り戻し、その恩恵を最大限に活用すれば、世の中を改善できるという大きな希望を持つことができる。

リチャード・ウィルキンソン 経済学者、公衆衛生学者

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Richard Wilkinson

ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスで経済史を学び、後に疫学を学ぶ。ノッティンガム大学メディカルスクール名誉教授、ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン名誉教授。著書に『格差社会の衝撃』『寿命を決める社会のオキテ』など。ケイト・ピケットとの共著『平等社会』は『ニュー・ステイツマン』誌の「この10年に読むべき本トップ10」に選出され、20を超える言語に翻訳された。

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ケイト・ピケット 疫学者

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Kate Pickett

ヨーク大学健康科学学部教授、同大学未来の健康センター副所長。ケンブリッジ大学で形質(自然)人類学を、コーネル大学で栄養学を、カリフォルニア大学バークレー校で疫学を学ぶ。『平等社会』共著者のリチャード・ウィルキンソンとともに、英国の不平等を解決するための組織イクオリティ・トラストを設立する。

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