LINE MUSIC、「全曲無料でフル再生」の爆発力 大物アーティスト参戦で巣ごもりにもはまる

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若年層のユーザーが多いため、他社サービスより、若手アーティストの人気が高い傾向がある(記者撮影)

しかし、この順調な成長こそ、LINE MUSICの懸念だった。取締役COOの高橋明彦氏は「サブスク市場は着々と伸びているが、サービスは優勝劣敗の状況。ユーザーが進んでお金を払っている状況とは言えず、メディアの注目度も以前より下がっている。業界全体が盛り上がっているわけではない」と指摘する。

ブームが沈静化している背景には、各社ともに当初から充実したコンテンツを提供できなかったことがある。LINE MUSICの場合、スタート時の楽曲数は150万曲以上と限定的だった。レコード会社やアーティスト側に「サブスクで収入が得られるのか」「CD販売が減るのではないか」といった懸念があり、許諾を得られなかったからだ。どれだけアピールしたところで、聴きたい曲がなければ、ユーザーはサービスを利用しない。無料期間の体験で離脱してしまい、有料プランに移行するユーザーは多いとは言えなかった。

ただ、この弱点は、時間の経過とともに克服されていく。徐々に大物や人気アーティストの楽曲提供が進んだ。2019年にはサザンオールスターズ、スピッツ、L'Arc~en~Ciel、安室奈美恵などが解禁。2020年にはアイドルグループの嵐も解禁となっている。

2019年に解禁した人気バンドのWANIMAは直筆メッセージで、「みなさんが大切なお金で買ってくれるCDたちがいきなり誰でも聴き放題になるということ(中略)ずーっと…悩んでました」と、胸の内を明かしている。多くのアーティストが葛藤を抱えつつも、楽曲提供に踏み切ったことで、サブスクのサービスは大きく前進することになった。

ハードルを下げてサービスを体感させた

コンテンツが大幅に広がり、機能の追加・刷新を繰り返しているにもかかわらず、会員数は爆発的には増えないで、”順調な成長”に甘んじている。これがLINE MUSICの危機感だった。そこで、普段はあまり音楽を聴かない層や、YouTubeのミュージックビデオの視聴だけで満足してしまっている層、以前登録したが楽曲の少なさに失望し離脱した層に再びアピールするため、「今のサービスを使ってもらいたい」と無料フル再生を打ち出した、というわけだ。

高橋COOはユーザーの動向について「海外ではDJや有名人のプレイリストから曲を聴くのが当たり前だが、日本のユーザーはライブラリに登録した曲を繰り返し聴く傾向が強い」と語る。これがオンデマンド型にこだわった理由だった(2019年6月撮影:梅谷秀司)

無料フル再生は構想から3年、交渉には2年ほどを費やしている。世界最大手・Spotifyの無料プランのように、広告があり、シャッフル再生で聴く「ラジオ型」なら、多少は許諾も得やすい。だが、LINE MUSICはフル再生かつ、曲を選んで聞く「オンデマンド型」。広告もなしと、徹底してライトユーザーのため、ハードルを下げることにこだわった。当然、アーティストの権利を守るレコード会社からは反対もあったものの、無料再生分の対価をすべて負担すること、8400万のLINEユーザーへのアプローチを一段と進めることなどで、何とか許諾を得ることができたという。

「サブスク市場が伸びてきたことに加えて、LINE MUSICの有料会員数が多く、存在感があったこと。会社がレコード会社との合弁であること。8400万のLINEユーザーがいることなどが大きい。当然対価を払うので出血覚悟でやっている。他社が追随するのは難しいだろう」と、高橋COOは自信をのぞかせる。

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