「自粛と補償はセット」議論で必要な3つの要点 政府が固執する「自粛と補償は別」は正しいか

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第一のポイントは、飲食店等に営業自粛を求めることが、「公共のために用ひる」にあたるかである。「公共のために用ひる」とは、土地収用の場合など強制的に財産権を収用する場合だけでなく、財産権を制限する場合も含まれると解されている。

例えば、東京都の場合、都のHPでも公表しているように
遊興施設(キャバレー、ナイトクラブ、バー、パブ……)等をはじめとした対象施設については休止要請が出ており、その要請とはパチンコ店を休業させた執拗な指導に見られるように、かなりの強制力を持ったものである。

その結果として、休業した店は営業の機会を奪われ、きわめて深刻な経済的損失を被っているのであるから、休止要請は“要請”ではあるが、所有権制限の場合と同程度の制限を行ったと解することができるのではないだろうか。

これに対し、営業は午後8時まで、酒類の提供は午後7時までという営業時間短縮の要請を受けた通常の飲食店の場合はどうだろうか。午前5時~午後8時までの営業を認められているのであるから、制限を受けたと言えるとしても、その制限はかなり限定的である。

営業自粛要請には補償が必要なのか

第二のポイントは、「正当な補償」が与えられるのかである。

従来の通説は、財産権に内在する社会的制約の場合には補償が不要であるが、それ以外に特定の個人に「特別の犠牲」を加えた場合には補償が必要であるというものである。

そして、「特別の犠牲」と言えるかどうかは、①侵害行為の対象が広く一般人か、特定の個人ないし集団かという形式的要件と、②侵害行為が財産権に内在する社会的制約として受忍すべき限度内であるか、それを超えて財産権の本質的内容を侵すほど強度なものであるかという実質的要件の2つを総合的に考慮して判断すべきだとされている。

休止要請が出た対象施設は、多くの業種、業態の中から選別されて指定を受けているので、①の形式的要件に当てはまり、また、営業が全くできなくなり、財産権の本質的内容を奪われているので、②の実質的要件も満たしていると考えられる。

しかし、短縮営業を要請されている通常の飲食店については、午後8時までの営業が認められているのであるから、財産権侵害の程度はかなり限定的であり、従って、受忍すべき限度内にあり「特別の犠牲」を強いられたとは言えず、「正当な補償」の対象とならないと考えられるのではないかと思われる。

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