コロナ以外の重病者にも及ぶ医療現場の超逼迫 コロナであふれる病床、救急受け入れ拒否続出

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日本の医療現場はコロナ感染爆発の前にすでに機能不全を起こしかけている(写真は都内で4月22日撮影、ロイター/Issei Kato)

東京都文京区の呼吸器クリニックに80代の女性がやってきた。呼吸困難の症状でCT(コンピューター断層撮影)検査を行うと、明らかな肺炎の像があった。血液中の酸素レベルを数値で見ると「エベレストの山頂並み」の息苦しさを示していた。

新型コロナウイルス感染の疑いがあったため院長が保健所に連絡したところ、PCR検査の実施を断られてしまった。とはいえ感染の有無にかかわらず、入院して処置を施さなければ1週間以内に亡くなってしまうような重症の肺炎だった。院長が大規模な病院に受け入れを要請したものの、その答えは、「感染症専用病室に空きがないので受け入れられません」。

院長が窮余の策として採ったのは、断られた病院も含め、患者自身に重症患者を受け入れてもらえそうな病院へ直接行ってもらうことだった。宛先を書かずに紹介状を渡し、女性が「勝手に行った」ことにしたのだ。本来は好ましくないが、それしかなかった。

「あの重度の肺炎で受け入れが拒否されるなんて通常ではありえないことだ。医療崩壊はもうすでに起こっている」と院長は話す。

『週刊東洋経済』4月27日発売号(5月2日-9日合併号)は、全48ページの「コロナ医療崩壊」特集を掲載。新型コロナの感染拡大により困難に見舞われている、国内外の医療現場の最前線を追っている。

受け入れは病院に重荷

新型コロナの新規感染者が拡大を続ける中で、常に問題となってきたのが、病床の確保だ。そもそも新型コロナ患者の受け入れ病床となる急性期・高度急性期の病床の稼働率は東京都内で8割を超えており、病床数に余裕がない。

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さらに受け入れは病院の経営難に直結する可能性があり、二の足を踏む医療機関も少なくない。まず、外来患者を遠のかせる風評被害につながる恐れがある。加えて2次感染防止のためのスペースを確保しようとすると、現在の病床数を削減せざるを得なくなる。「50床分使えるスペースでも、感染対策をすると40床くらいしか使えなくなる。感染者を受け入れるほど経営が苦しくなっていく」と、ある病院経営者は苦しい胸の内を明かす。

重症患者にとって「最後の砦」とされるICU(集中治療室)病床も逼迫している。2月に感染者が急増し、知事による独自の緊急事態宣言が出された北海道では、新型コロナの集団感染の発生でICUに重症患者があふれる事態が起こっていた。旭川赤十字病院には、180キロメートル離れた北見市から感染患者が搬送された。北見市で発生した集団感染で同市内のICU病床が感染患者で満床状態になってしまったからだ。

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