コロナ以外の重病者にも及ぶ医療現場の超逼迫 コロナであふれる病床、救急受け入れ拒否続出

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日本集中治療医学会の各都道府県別ICUベッド数推定値(4月30日発表)によると、日本の人口10万人当たりのICU病床数は5.1床。感染者の死亡率が高いイタリア(約12床)やスペイン(約10床)よりも少ない。日本集中治療医学会は声明で「日本の集中治療の体制は、パンデミックにはたいへん脆弱といわざるをえない」と危機感を示す。

重症患者に必要な人工呼吸器と人工心肺装置・ECMO(エクモ)の不足も懸念される。日本集中治療医学会副理事長の川前金幸医師は、「心筋炎などの患者であれば人工心肺は通常2~7日で外せることが多い。しかし、新型コロナ患者は救命できた場合でも1~2週間以上かかり、1人の患者が機器を長期間独占する。院内感染のリスクも計り知れない」と指摘する。

ICUは集中治療の専門医や看護師、臨床工学技士などのスタッフがチームで対応する。看護師は一般病床よりも多く、人工心肺をつけた患者には手厚い看護が必要になる。さらに、新型コロナ患者の対応では2次感染を防ぐために、通常のICU体制の2倍以上の人員が必要だとされる。

通常の手術ができない

「新型コロナ患者の横のベッドに内臓移植後の患者を寝かせるわけにはいかない。手術は軒並み延期だ」。そう話すのは、関西の大学病院に勤務する麻酔科医だ。この大学病院は感染症指定医療機関ではないが、重症の新型コロナ感染者を受け入れている。

市内の感染症指定医療機関が救急受け入れを中止した影響で、大学病院では急病・事故の救急外来が急増。指定医療機関は新型コロナ感染者であふれ、大学病院も重症患者を引き受けている。

がんや心臓疾患、内臓移植などの手術をしようにも、院内感染を防ぐためには手術を延期するしかない。日本心臓血管外科学会は新型コロナ感染者の病床を確保するため、緊急を要しない手術の延期を全国の施設に求めている。

院内感染が1度起これば、病院閉鎖にまで追い込まれる。感染者の紛れ込みを恐れた病院から救急受け入れを断られる「たらい回し」が実際に起こっている。日本救急医学会と日本臨床救急医学会は共同声明を出し、救急医療体制の崩壊を「すでに実感している」と危機感をあらわにした。

声明によると、「発熱」や「呼吸器症状」のある患者は一般の病院で診療を断られることが多く、こうした患者を救命救急センターで受け入れている状況だ。その結果、脳卒中や心筋梗塞など本来の重症救急患者の受け入れができなくなっている。「新型コロナ以外」にも医療崩壊の波が及んでいる。

『週刊東洋経済』5月2日・5月9日合併号(4月27日発売)の特集は「コロナ医療崩壊」です。
井艸 恵美 東洋経済 記者

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いぐさ えみ / Emi Igusa

群馬県生まれ。上智大学大学院文学研究科修了。実用ムック編集などを経て、2018年に東洋経済新報社入社。『週刊東洋経済』編集部を経て2020年から調査報道部記者。

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石阪 友貴 東洋経済 記者

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いしざか ともき / Tomoki Ishizaka

早稲田大学政治経済学部卒。2017年に東洋経済新報社入社。食品・飲料業界を担当しジャパニーズウイスキー、加熱式たばこなどを取材。2019年から製薬業界をカバーし「コロナ医療」「製薬大リストラ」「医療テックベンチャー」などの特集を担当。現在は半導体業界を取材中。バイクとボートレース 、深夜ラジオが好き。

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