アベノマスク、安倍首相はどこで誤ったのか 不良品が相次ぎ発覚、納入業者選定に疑念も

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4月28日の国会審議では、加藤勝信厚労相が「この会社と、輸入の関係会社も、一緒くたの契約になっている」と答弁。さらに「3月16日に予備費で契約した。契約額は5.2億円」などと説明した。しかし、「経産省主体でやったこと」などと他省に責任転嫁するような歯切れの悪さも際立ち、安倍首相も苦々しげにやり取りを見守った。

さらに、アベノマスクへの批判が加速したのが、いわゆる「アサヒノマスク」騒ぎだった。安倍首相は4月17日の記者会見で、朝日新聞記者から布マスク配布への批判を指摘された際、「御社のネットでも布マスクを3300円で販売しておられたと承知している」と皮肉交じりに答えた。

たしかに、朝日新聞社の運営する通販サイトで2枚3300円の「高額布マスク」が販売されていた。首相発言の直後からネット上では「ぼったくり!」などの書き込みが殺到したが、このマスクは繊維どころで知られる大阪府泉大津市と地場メーカーなどが立ち上げた「泉大津マスクプロジェクト」の一環として、当地の老舗繊維企業が作った手作りマスクだったことが判明。2枚3300円も定価どおりだった。

結果的に「不安をドバっと広げる」

このため、政界では「首相が周辺からの伝聞情報を鵜呑みにして、朝日に反撃したが、結果的に自らへのブーメランになった」(国民民主幹部)と揶揄された。しかも、4月22日には泉大津市長が官邸を訪問、応対した首相補佐官に「一つひとつ手作りで四層式。抗菌力に優れていて150回洗っても使える」などとアピールし、実物を首相用に進呈した。首相がつけてみたかは不明だが、その後「アサヒノマスク」への言及は避けている。

アベノマスクは、いわゆる官邸官僚が「国民の不安がぱっと消えます」と提案して安倍首相が乗ったというのが定説だ。ネット上では「なんでも官邸団」などと揶揄されており、その後のドタバタ劇もあって「結果的に、『ぱっと消える』どころか『不安をドバっと広げる』ことになった」(立憲民主幹部)ことは否定できない。

ネット上では、民放の人気番組に絡めたなぞかけで「アベノマスクとかけて森友、桜と解く その心は口封じ」などと揶揄する書き込みもあふれている。ただ、こうした批判や不評が、政治決断した安倍首相を「引くに引けない気持ち」(政府筋)に追い込んだともみられる。政界関係者は有名なお菓子のキャッチコピーを引用して「やめられないとまらない、だね」と皮肉交じりに首相の心境を解説する。

これほど騒ぎになったアベノマスクなのに、首相を支えるはずの閣僚や与党議員のほとんどが、同じ布マスクは使用していない。予算委で「つけないのか」と水を向けられた首相の盟友の麻生太郎副総理・財務相は、自前のマスクをずり上げながら、「まだ届いていないので」と薄笑いを浮かべてとぼけた。与党内には「こればかりは忖度できない」(自民若手)との声も漏れてくる。

いま、永田町などで「アベノマスクは流行語大賞の有力候補」との声も広がる中、カラオケ定番の名曲「時代」のフレーズ「あんな時代もあったねと きっと笑って話せるわ」を思い浮かべる向きも少なくないという。

しかし、今回のアベノマスク狂騒曲の記憶は、「とても笑い話にはなりそうもない」(閣僚経験者)。もし、感染拡大阻止に失敗して安倍政権が終われば、「アベノミクスで始まり、アベノマスクで終わった」とも言われかねない。

安倍首相も、歌の続きのように「だから今日はくよくよしないで 今日の風に吹かれましょう」という心境にはなれそうもなさそうだ。

泉 宏 政治ジャーナリスト

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いずみ ひろし / Hiroshi Izumi

1947年生まれ。時事通信社政治部記者として田中角栄首相の総理番で取材活動を始めて以来40年以上、永田町・霞が関で政治を見続けている。時事通信社政治部長、同社取締役編集担当を経て2009年から現職。幼少時から都心部に住み、半世紀以上も国会周辺を徘徊してきた。「生涯一記者」がモットー。

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