ゴーンの生い立ちから日本脱出までのリアル 在日フランス人記者だから書けた事件の全容

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欧米企業を手本とする日本の経営学大学院にとって、レバノンでのゴーンのプレゼンぶりは貴重な教材になるのではないかとさえ思えた。

「手負いの野獣」ゴーンと正反対だったのが、会見への出席、そして個別取材を許された日本の某民放テレビ局の特派員だ。ゴーンに噛みつくことなく、相手が答えやすい質問をお粗末な英語で聞くだけ。

余裕たっぷりのゴーンがこの特派員を軽く見ている様子だけが伝わってきた。このテレビ局が「日本のテレビ局で取材を許可されたのは、わが社だけです!」と自慢気に語っていたのは恐ろしく滑稽だった。

最近ではホリエモンこと堀江貴文氏が(収監された際に負った自身のトラウマを治癒するために?)レバノンにまで出向き、ゴーンと会ったときの動画をユーチューブで配信した。

拙い英語でゴーンに語りかけるホリエモンの姿には好感をもてたが、両者の構えには、私の感覚では、将棋で言えばアマチュアとプロ棋士くらいの違いがあった。ようするに、手合い違い。これがローカルとグローバルの違いか。ゴーンの凄みだけが浮き立っているように思えた。

衝撃の生い立ちから伝説の経営者になるまで

カルロス・ゴーンとは何者か。

1999年に瀕死の日産を復活させ、その後もルノー会長として辣腕を振るい、日本では企業経営者の鏡として絶賛されてきた男。

ところが2018年11月、羽田空港にて突然の逮捕。夕暮れの滑走路に停まる日産の社用ジェット機の映像をご記憶の方も多いだろう。

逮捕後は東京拘置所にて越冬。この間、日本のメディアでは、検察の「人質司法」に対する批判、拘置所での過酷な暮らしぶり、日産とルノーのアライアンス、さらには日仏関係に対する懸念などが語られた。

本書の第1章では、自らも東京拘置所に暮らしたことのある作家の佐藤優氏の言葉を引用しながら、その暮らしぶりが語られる。続いて第2章で語られるのは、ゴーンの生い立ち、家族との関係である。

ここで紹介されるレバノンでの幼馴染たちの衝撃の証言(例:学校では箝口令が敷かれた父親に関する驚愕の事実)などは、それまで日本では知られていなかったのではないだろうか。

本書の著者たちが突き止めた事実は注目を集め、「ゴーンの『不都合な真実』」として、『フライデー』(2020年1月31日号)にも紹介された。

レバノンで育ったゴーンはフランスの名門校に学び、タイヤメーカーのミシュランに就職。頭角を現した後にルノーにヘッドハンティングされ、日産を立て直すために日本に向かうことになる。

日産の再生を見事に果たして伝説の経営者となっていく様子も本書では小気味よく描かれていて、読者を飽きさせない。「ダボス・マン」として世界的に有名だったゴーンは、英語で世界に日本の魅力を発信する最高の「広報マン」だったという記述も、私たちには想像にかたくないのではなかろうか。

そのゴーンが変調していくのが、2005年頃以降のこと。ルノーのトップだったルイ・シュバイツァーが引退してお目付役がいなくなり、リーマンショックで自身の運用する金融資産が危機を迎えたあたりからだ。

この頃ゴーンは、GM(ゼネラルモーターズ)のCEO就任を打診され、提示された報酬額から、自らの「市場価値」を理解したそうだ。そして、ルノーや日産から受け取る報酬額は、「少なすぎるのではないか」と感じるようになる。

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