原油大暴落なのに銅はなぜか上昇している「謎」 景気を映し出す「2つの鏡」はどっちが正しい?
しかしながら、3月下旬から銅価格は持ち直しに転じた。各国の政策対応が奏功し、金融市場のパニックが最悪期を脱したことで投げ売りが収まったことが一因だが、本質的理由は中国経済の最悪期脱出を起点とする世界経済の持ち直し(期待)だろう。
中国では3月中旬頃から経済活動の再開が進められ、それに伴って銅の需要が持ち直したと考えられる。実際、中国の製造業PMIは3月に鋭く回復し、貿易統計では銅(未加工)の輸入量増加が確認された。また4月下旬頃に欧米各国が段階的な経済活動再開の方針を示したことも銅価格反発の一因と考えられる。こうして考えると銅価格の底打ちは世界経済の回復期待を反映しているようにみえる。
原油マイナス圏突入の背景は?
それと対照的なメッセージを発しているのは原油だ。言わずと知れた世界経済のバロメータである原油先物(WTI)価格は4月20日に史上初となるマイナスを記録した。原油価格急落の背景は新型コロナ問題の発生以前から供給過剰気味だったところに(1)世界的な需要急減少が直撃し(需要側問題)、(2)さらに産油国の利害対立もあって十分な減産が進まない(供給側問題)、という2つの要因が絡み合っている。
本来、市場原理に基づけば原油の生産量は需要予測に基づいて決定される。しかしながら、現実の世界では各国の覇権争いから半ば意図的とも言える供給過剰が引き起こされる傾向があり、今回もその色彩が強い。
背景にあるのは各国の採算基準の格差だ。例えば、原油の採掘コストはサウジアラビアが1バレルあたり3ドル以下とされるのに対し、アメリカのシェール企業のそれは30~40ドルとされており、各国に相当なバラつきがある。
このように各国の事情が異なる以上、タイムリーな減産が進むとは考えにくく、またそのこと自体が原油価格の下落圧力を増幅している面がある。こうして考えると目下の原油価格下落は、どちらかというと供給側要因が強く効いている印象だ。この見方が正しければ、原油価格は世界経済の弱さを誇張していることになる。
ちなみにWTI原油価格はアメリカのオクラホマ州における受け渡し価格であり、急落の背景には同地域の貯蔵施設における保管能力が限界に達したという固有要因を含む。WTIのみがマイナスに陥り、その他のメジャー指標である北海ブレントなどがマイナスになっていないのはこうした理由で説明可能だ。世界経済の体温計としては、後者を参照した方が良さそうだ。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら