9年前に警告されていた「感染対策と鉄道運休」 2011年と2014年に国が調査報告を行っていた

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ピークシフトによる混雑時間の変動シミュレーションは、乗客数が平時の6割、5割、4割になったとき、駅間混雑率が250%を超えないとすると、どの時間帯にどれだけの人々が乗れなくなるか、という調査だ。つまり、時差通勤をする場合、混雑時間帯以外に必要な増発列車数を求めた。乗車人数が少ないほどピーク時間帯が動かず、増発が必要な時間も短い。

筆者の疑問点は、現在の新型コロナウイルス感染拡大時に「なぜこれらの調査結果を反映した減便や乗客数抑制が行われていないか」である。強力なインフルエンザと新型コロナウイルスは別物と考えられたからか、あるいは、感染から発症するまでが短いインフルエンザと、潜伏期間が長い新型コロナウイルスでは、同じ対処が困難だからだろうか。

今からでも「減便」を

しかし、4月7日に首都圏を含む地域で緊急事態宣言が発出された時点で、相当の感染拡大傾向があった。国土交通大臣は減便要請について否定した。しかし、2011年の調査研究報告とシミュレーション結果を認識していれば、この時点で減便要請はできた。また、2014年にアンケートに回答した鉄道会社は、緊急事態宣言初出時に「特別ダイヤへ移行する判断機関」を設置しているはずだ。それを踏まえて「通勤電車を減便しないという判断をした」か、あるいは「判断機関を設置しなかった」か。これは各交通事業者が振り返り把握しておくべきだろう。

いまさら時計の針を戻して減便はできない。しかし、いまから減便して、これ以上の感染拡大を防ぐという対処は可能だ。そして、次に感染拡大が起きたとき、早期から対処できるように準備しておきたい。

杉山 淳一 フリーライター

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すぎやま じゅんいち / Junichi Sugiyama

東京都生まれ。信州大学経済学部卒。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。出版社でパソコン雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当したのち、1996年にフリーライターとなる。IT、PCゲーム、Eスポーツ、フリーウェア、ゲームアプリなどの分野を渡り歩き、現在は鉄道分野を主に執筆。鉄道趣味歴40年超。全国の鉄道路線完乗を目指してコツコツと旅を重ねている。鉄旅オブザイヤー選考委員。基本的に、列車に乗ってぼーっとしているオッサンでございます。

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