まるで「持ち込み原稿」?論文審査の裏側 ふつうの人はほとんど知らない研究評価システム事情

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論文審査は「名無しさん」が担う

さらにややこしいことに、レフェリーは基本的に匿名なのである。レフェリーが匿名になっている理由は、そうでないと正直な意見を書けなくなるおそれがあるからだ。現代の民主主義国家で、選挙が無記名投票で行われる理由と似ているだろう。

ところがこの匿名制度には副作用がある。せっかく頑張ってすばらしい審査をしても、ほとんど誰も評価してくれないのだ。論文を投稿してきた著者はもちろんのこと、同じ論文を審査したレフェリー同士でも、自分以外が誰なのかはわからない(ついこの間コンピュータサイエンスのレフェリーをしたときにはレフェリー同士の名前が見えたので、分野によって違うらしい)。

そのうえ、レフェリーレポートは機密文書だから、公開する機会もない。せっかく苦労して書いた文章なのに、論文の著者とせいぜい依頼してきた編集委員しか読んでくれず、しかも誰が書いたかを知っているのは自分と編集委員ひとりだけなのだ。となれば特別な怠け者でなくても、やる気が出ないのは無理もない。

そして、この論文審査の依頼はしょっちゅうやってくる。僕の場合は、ちゃんと数えてみたことはないが、だいたい年間30本強、1、2週に1本くらいはレフェリーレポートを書いている。編集委員や副編集長の仕事としては、5誌それぞれで、年間10本くらい論文の採否を決定する。もっともこの数字は分野や個人によって違うので、はっきりと結論を出すわけにはいかないが、大ざっぱに言っても、1本の論文にそれほど時間をかけられない事情がある、とは言えるだろう。

そんなわけで、現在の論文審査制度にはみんなが頑張らないための条件がそろいまくっている。そんな条件があるからこそ、いろいろな問題が指摘されるのかもしれない。

次回後編は、このいろいろな問題を具体的にご紹介するところから始めよう。
 

小島 武仁 経済学者、東京大学大学院経済学研究科教授

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こじま ふひと / Fuhito Kojima

東京大学マーケットデザインセンター(UTMD)センター長。1979年生まれ。2003年東京大学卒業(経済学部総代)、2008年ハーバード大学経済学部博士。イェール大学博士研究員、スタンフォード大学助教授、准教授を経て2019年スタンフォード大学教授に就任。2020年に母校である東京大学からオファーを受けて17年ぶりに帰国し、現職。専門は「マッチング理論」「マーケットデザイン」。

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