インドの水道インフラは、なぜ崩壊したのか インドで展開する水プロジェクト<第2回>

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慢性の水不足の原因はそれだけではない。古く劣化した水道管は至る所で水が漏れ、アグラでは実に配水している4~5割が漏水によって失われている。だだ漏れの水道水は、多くの場所で地表まであふれ出し、雨でもないのに不衛生な水たまりを作る。それは伝染病や感染症の発生源となり、健康被害をも生じさせる。

さらに深刻な問題は、水が漏れる水道管とは、同時に水を吸い込む水道管ということだ。

ほとんどの時間を占める無給水時間(全日断水も週に1回以上ある)においては、水道管は管外の圧力のほうが高くなり、逆に土中の水が管内に入って来てしまう。その後に流す水道水には泥水が混ざり、給水時間と併せ「衛生上の最大の問題」(プロジェクトのスタッフ)だという。

上水施設の不備から、水道管を流れる水の圧力はもともと弱い。水量が少なく、すぐに水圧が弱まり出にくくなる水道。給水場から遠く離れるほど、水はどんどん来なくなってしまう。

アグラの水道水は安全ではないうえに、多くの地域でまともに行き渡ってすらいないのが実情だ。

ザルに水を入れるような街

住民たちは苦肉の策として、地下に埋まる水道管に無理やり穴を開け、直接取水する方法を日常的に行っている。手動式のポンプを使い、まるで井戸水をくみ出すように、水道管に残る最後の1滴までも吸い尽くす強引なやり口だ。

電気モーターでくみ上げる個人宅もあるが、トランスヤムナの町内には共同取水場がいくつか作られ、住民たちは限られた水道水の最後をここで分け合う。

当然、水道料金を払わないイリーガルな盗水行為である。さらに厄介なことに、この行為は水道管の傷みを増幅させ、結局は水供給を滞らせる要因になっている。しかし、水道局はもはや黙認状態。街の市場に行けば、盗水用の手動ポンプが堂々と売られているほどである。

こうした水インフラの惨憺たる状況を目の当たりにし、ガンガージャル・プロジェクトのメンバーは言う。

「これでは実際にガンジス川から水を引っ張って来ても、ザルに水を入れるようなものです」

いくら飲み水を用意しても、現在のアグラの水道網を使っているかぎり、各家庭に水はほとんど届かない。

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