迷走する農業改革、厚い規制の「岩盤」 特区指定も農協保護など「岩盤」
大規模化目指す「農地バンク」、疑問の背景
戦略特区と並んで、安倍政権が力を入れるのが、環太平洋連携協定(TPP)後をにらんだ大規模化による競争力強化だ。安倍政権は昨年の日本再興戦略で、農地大規模化を「農業改革の1丁目1番地」として位置づけた。
伊藤隆敏・政策研究大学院大学教授は「TPPを成功させるには、輸入品と戦えるように、コスト低下とブランド強化をしなければならない」とし、特にコメについては大規模化以外にないと強調する。
そのために政府は、昨年末にはいわゆる「農地バンク」設立の法律化と予算化にこぎつけた。地域内の分散し錯綜した農地利用を整理集約し、全国で埼玉県に匹敵する面積にのぼる耕作放棄地を集めて借り受け、まとまりある形で新たな担い手に貸し付けるという制度だ。
だが、早くも大きな疑問符が提起された。産業競争力会議のメンバーである新浪剛史・ローソン会長が今年2月、「既に良い農地は借りられていて、むしろ借り手のいないような農地を開発して余らせてしまうのではないか」と、将来性に懸念を表明したのだ。
「農地バンク」に対する懸念の背景には、3つの事情があるようだ。1つは見ず知らずの他人に土地の拠出することへの農家の「抵抗感」だ。
ある自治体は「自分の農地を貸すのかどうか、農家の意向次第。農地バンクができたからといって一足飛びに集約が進むかは疑問」と語る。
2つ目は、政府が2013年に廃止を決定した減反補助金の転作奨励金への衣替えだ。主食米の生産調整による減反に協力する補助金制度はなくすものの、飼料米への転作農家には新たな補助金を配る。このため「大方の地元米農家は、飼料米に転作することになりそうだ」(鹿児島県選出の代議士)とされ、土地拠出の足を引っ張るとみられている。
キャノングローバル戦略研究所・研究主幹の山下一仁氏は「小規模農家を存続させる新たな減反補助金と、大規模化を目指そうとする農地バンク設立は、全く矛盾した政策」だと指摘する。
3つ目は、土地を流動化する際、農地バンクの事務を受託する第3セクターだけでは情報が足りず、「地元農家の土地事情を把握している農業委員会や農協がかかわることになる」(鹿児島県)点だ。地元農家の意向が反映されやすくなる一方、公平な農地の分配に対する懸念も強くなっている。
農業生産法人の支援を行っている公益社団法人「日本農業法人協会」は「少なくとも土地の貸し付けについてしっかりとした監視体制が望まれる」(総務・政策課・高須敦俊氏)と要望している。