たばこ業界は世界的大型再編は一巡、規制強化で環境厳しい《スタンダード&プアーズの業界展望》
グローバルの事業環境は、たばこ事業法によりJTが製造を独占している日本市場とは大きく異なる。たばこ事業に対する規制強化が進み、たばこの製造販売事業会社にとって継続的な収益圧迫要因となっている。WHO(世界保健機関)の「たばこ規制枠組条約」(05年2月発効)は、価格・課税、包装・ラベル、広告、未成年者への販売などの項目で追加的な規制を課したことで、販売促進が制約されるとともに、喫煙機会が減少するため、需要の減少につながっている。近年、特にEU(欧州連合)加盟各国は、健康懸念や環境問題への対策として公共の場所での喫煙規制を強化しており、喫煙率低減の具体的な数値目標がない日本国内とは事情が違う。
日本の業界動向
鳩山政権はたばこの価格政策について法改正を伴う抜本的な見直しを提案している。たばこ税の目的を財源確保から、健康確保のための喫煙率引き下げに改めることで、国際比較では欧米の3 分の1 に過ぎない日本のたばこ小売価格を上昇させ、販売数量の大幅減少につなげる意図のようだ。今のところ法改正の可能性を含めた抜本的な見直しの方向はハッキリしないが、大幅なたばこ税引き上げには反対意見があるため、短期的には販売数量が急減する可能性は低くなった。今後、法改正や増税の動きに合わせて、JTが自社ブランドの一部製品の小売価格を引き上げるなど、機動的な価格政策をとることができるか、また現在の高利益率や圧倒的シェアを維持できるかどうかに注目している。
たばこの小売価格の変動に対する販売数量の弾力性は、食品・飲料など他の消費財に比べると低く、小売価格引き上げや景気悪化の影響を比較的受けにくい。しかし、国内の喫煙者率は長期的に低下しており、09 年4~9月期のたばこの国内販売数量は前年同期比5.2%減の786億本だった。消費者の健康意識の高まり、人口の減少や高齢化の進行、たばこ税引き上げに伴う販売価格上昇などの影響で、国内たばこ需要の減少傾向は中長期的に続くと考えている。欧米など日本以外の先進諸国でも喫煙者率が長期的な低下傾向にある一方で、経済が発展途上で、人口増加が続いている地域では喫煙嗜好が根強いため、より高価格のブランドへのシフトによる需要拡大の余地が残る。