イオン、よくて「営業利益半減」の衝撃シナリオ 休業で賃料実質ゼロ、収益柱「不動産」に陰り

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こうした厳しい状況を受けて、格付け会社のスタンダード&プアーズ(S&P)は4月17日、「安定的」としていたイオンとイオンモールの格付け見通しを「ネガティブ」に引き下げた。

S&Pは「新型肺炎の感染拡大により、業績に対する強い下押し圧力が今後1~2年続く可能性が高い」と指摘する。財務状況についても、「国内外の大型店やショッピングモールの一部営業休止と、景気の大幅な悪化による個人消費の落ち込み影響により、投資の抑制をもってしても、イオンの主要財務指標は今後1~2年、S&Pの従来の想定を下回る可能性が高い」とする。

盤石と言えないイオンの財務体質

S&Pが指摘するように、現在のイオンの財務内容は盤石と言えない側面がある。

企業の長期的な支払能力を示す「固定長期適合率」(固定資産÷(固定負債+自己資本))は2019年2月期の124.0%から2020年2月期に118.2%と改善した。だが、健全な水準と言われる100%を超過しており、注視が必要だ。

自己資本比率は2019年2月期10.9%から2020年2月期9.6%に低下。社債やリース債務の増加により負債合計が2019年2月期から2020年2月期にかけて1兆0433億円膨らんだためだ。

企業の短期の支払い能力を見る「流動比率」(流動資産÷流動負債)は2019年2月末の100.0%から2020年2月末の101.7%にやや改善したものの、一般的に適正水準とされる120~150%超よりも低い。月商に対する現預金も2019年2月末の1.2倍から2020年2月末の1.7倍とやや上向いたが、資金繰りは盤石と言える水準ではない。

同じくGMSを展開するセブン&アイホールディングスと比べると、セブンの固定長期適合率95.6%、自己資本比率43.4%、流動比率114.6%(すべて2020年2月期)と、主だった財務の安全性指標はすべてイオンが見劣りすることがわかる。

資金繰りについて、イオンの広報・IR担当者は「空いている融資枠が1.2兆円分ある」とする。イオンモールも「3月に個人向け社債を発行し300億円調達した。さらに2200億円の融資枠がある」(IR担当者)と言う。資金繰り危機が迫ることは考えにくいが、新型コロナ影響が長期化して借入が増えることになれば、さらに財務内容は後退することになる。S&Pの格付け見通しが引き下げられたことで、社債発行条件の悪化など、資金調達面への影響も懸念される。

4月10日に開いたウェブ上の会見で、イオンの吉田社長は「生活インフラとしてのイオンの役割は大きい。最大限の努力で生活必需品の販売を続けていきたい」と強調した。未曾有の危機を乗り切ることができるか。小売り盟主の底力が試される。

梅咲 恵司 東洋経済 記者

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うめさき けいじ / Keiji Umesaki

ゼネコン・建設業界を担当。過去に小売り、不動産、精密業界などを担当。『週刊東洋経済』臨時増刊号「名古屋臨増2017年版」編集長。著書に『百貨店・デパート興亡史』(イースト・プレス)。

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