品川ー仙台4時間半、長距離特急「ひたち」の実情

常磐線が3月に全線再開、誰が乗っているのか

再び単線区間に入ると新しい住宅が目立ち始め、固まった敷地に同じ姿格好の家々が並ぶ区画もある。復興住宅であろう。以後、車窓を見るにも自然と身が引き締まる。墓地も、お寺や敷地は古そうだが墓石は多くが新しい。

2017年10月から今改正まで、仮の終点だった富岡に到着すると、海側は堤防内側の広大な更地である。ダンプや重機が稼働しており、さらに地盤に盛る用土なのか土砂の小山も点在する。駅は新しい。スーツ姿の人が降りる。

そしてこれより今回の開通区間に入ると、夜ノ森あたりで風景が変わった。春間近な内陸の起伏をたどり、家屋も点在し車も留め置かれているが、生活感がまるでない。よく見れば屋根瓦はまだらに落ち、軒は歪み窓が割れ、そうでなくても窓の中の障子やカーテンは破れ、ビニールハウスは骨組みを残して草木の中に埋もれている。9年間、自由な立ち入りが規制されてきた地域に入ったのだ。

今回の再開区間では、富岡、大熊(駅名は大野)、双葉、浪江の各町の駅に停車していく。それぞれわずかな人数がホームに立ったが、土地で暮らす人の姿ではない。やはり特急停車は今後の街の再生に向け、関係者の往来を支えるための施策でもあるのだ。車内で再開通区間の旅行を楽しむ様子だった人々から会話が消えた。ただ、大野―双葉間の車窓海側に大きな建物が建設中だった。大熊町が被災地から発生する特定廃棄物の収集や分別、安全化を図って再資源化するリサイクルセンターと、後で聞いた。

今回再開した富岡―浪江間を含め、原発事故の影響を受けた区間は、ルートは以前のままだが、線路のバラストやまくらぎ、架線柱などは刷新されているのが、その色からわかる。

日常生活の光景に安堵して仙台へ

原ノ町は南相馬市の中心駅。野馬追唄の発車メロディを聞いて発車する。

『鉄道ジャーナル』2020年6月号(4月21日発売)。特集は「新しい旅と列車」(書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします)

駅周辺は新しい家々が建ち並ぶ。これより先はようやく田んぼにトラクターの稼働を見るなど、春の準備に勤しむ人の姿が戻ってきた。

相馬の到着を前にして、「ひたち」に向けて手を振る親子の姿が見えた。子どもはまだ未就学の歳と思われ、家の近所で赤帯も鮮やかな10両編成の特急を見ることなど、初めての経験のはずだ。

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