マツダ、コロナショックで「赤字転落」の現実味 海外販売が急落、大幅減産で下請けも苦境に

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東京商工リサーチ広島支社によると、マツダの本社と工場がある広島県には1次下請けだけでも全体の4割近い約300社が集中し、従業員は4万2000人に上る。広島県の製造品出荷額の約3割はマツダを軸とする自動車産業が占め、雇用の裾野も広い。コロナが収束したときにサプライヤーが安定供給できなければ、マツダの反転攻勢は難しくなり、地域経済に悪影響が連鎖することになる。地域の金融機関は目下サプライチェーンを守るために必死だ。

広島県を地盤とする広島銀行ではマツダの生産調整を機に、取引先のサプライヤーから資金繰りの逼迫に伴う相談が増えているという。広島銀行の坂井浩司執行役員は「過去経験したことがない緊急事態で地域経済への打撃も大きい」と危機感を募らせる。

そのうえで、「元から事業性評価などで顧客にはかなり深く入り込み、経営状況を理解している。至急の新規融資や条件変更など顧客のニーズには、スピード感を持って弾力的に対応するのが先決だ」(同)と話す。マツダの減産で売上高が減るのを少しでも穴埋めしようと、マスクや防護服の生産について相談してくるサプライヤーもいて、実際に生産を始めた企業もあるという。

成長戦略が狂う恐れも

マツダ自身はこの危機をどう打開するのか。窮地に陥った場合は2017年に資本業務提携し5%の出資を受けるトヨタやメインバンクの三井住友銀行に「後ろ盾」として支援を仰ぐ可能性がある。

その場合、マツダとしても研究開発費や設備投資について抑制や先送りをするなどの自助努力を迫られる。マツダは「ラージ」と呼ばれる新世代の大型車種を2023年3月期から順次投入する計画。「CX-5」や「CX-8」など現行の大型車種のフルモデルチェンジに合わせて新しいプラットフォームを導入し、プラグインハイブリッド車や直列6気筒エンジン搭載モデルなども用意する方針だが、投資抑制のため、これらの投入を後ろ倒しにする可能性も否定できない。

アラバマの合弁工場の稼働にも影響が出るかもしれない。合弁工場の年間生産能力はトヨタ、マツダそれぞれ15万台ずつ。 新工場でマツダは北米市場向けに新型SUVを生産し、伸びしろの大きいSUV需要を取り込む考え。前出の吉田シニアアナリストは「北米の販売動向いかんでは稼働開始を遅らせるのも選択肢。仮に稼働を開始したとしてもフルの生産能力まで当面引き上げない、あるいはトヨタとマツダで生産能力の配分を見直す可能性もある」と指摘する。一例としてトヨタが20万台、マツダが10万台といった具合だ。

コロナショックに直面した企業の最新動向を東洋経済記者がリポート。上の画像をクリックすると特集一覧にジャンプします

マツダは中期経営計画で2025年3月期の世界販売台数を2020年3月期よりも30万台多い180万台に引き上げる計画だ。その実現に向けては、アメリカの新工場で生産する新型SUVやラージの新型車を起爆剤としたいところ。ただ、今回のコロナ危機でそうした成長戦略が狂う恐れが出てきた。

マツダの世界販売台数は業界15位で、世界シェアは2%にすぎない。そのスモールプレーヤーが生き残るためには、「スカイアクティブエンジン」に代表される独自の技術力を磨き、顧客の期待を超える車を世に送り出し続けるほかない。コロナ危機に身をかがめつつ、収束後にどう飛躍するか、創業100周年を迎えたばかりのマツダは大きな試練を迎えている。

木皮 透庸 東洋経済 記者

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きがわ ゆきのぶ / Yukinobu Kigawa

1980年茨城県生まれ。一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了。NHKなどを経て、2014年東洋経済新報社に入社。自動車業界や物流業界の担当を経て、2022年から東洋経済編集部でニュースの取材や特集の編集を担当。2024年7月から週刊東洋経済副編集長。

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