ディズニー前CEOが明かす「古い常識」の破り方

「ブラックパンサー」の快挙とジョブズへの回顧

たった6年前のことなのに、前世の出来事のように感じられた。スティーブは私にとって仕事でも私生活でも大切な存在になっていた。グラスを掲げながら、私は妻のウィローを見ることができなかった。ウィローは私よりもずっと前からスティーブを知っていた。知り合ったのは1982年で、スティーブはアップル創業者としてまだ若く生意気でキラキラと輝いていた。今目の前にいるスティーブは、痩せ細って弱々しく、あと数カ月の命だと見てとれた。そんなスティーブを目にするのが妻にとってどれほど辛いことかはよくわかった。

「遺言」を胸に

スティーブは2011年10月5日に亡くなった。パロアルトでの埋葬に呼ばれたのは25人ほどだった。スティーブの棺を囲んだ私たちに、ローレンが何か言葉をかけたい人はいるかと聞いた。私は何も準備していなかったが、ピクサー買収の発表直前にスティーブとキャンパスを歩いた時のことが頭に浮かんだ。

あの時の会話を打ち明けたのは、法律顧問のアラン・ブレイバーマンと妻のウィローだけだった。妻にはあの日の感情の高ぶりを話さずにはいられなかったのだ。スティーブの人となりが現れたあの瞬間を思い出し、棺の前で話をした。スティーブが私を脇に寄せたこと。ピクサーの中庭を歩いたこと。私の背中に手を回し、ガンが再発したと教えてくれたこと。スティーブが誠実に、私とディズニーにこの秘密をきちんと伝えるべきだと思ってくれたこと。息子が高校を卒業して大人の入り口に立つまで生きていたいと語ったこと。

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葬儀のあと、ローレンが近寄ってきて、こう言った。「あの話は私も聞いていたわ。でも、まだ話してないことがあるの」。あの晩スティーブが帰宅したあとの出来事を、ローレンは教えてくれた。「夕食のあとで子供たちがいなくなったあと、スティーブに『話した?』って聞いたの。そしたら、『話した』って。私は『信頼できる人?』って聞いてみた」。

私たちはスティーブの墓を背にして立っていた。夫を埋葬したばかりのローレンは、私に大切な贈り物をくれた。あの日から毎日のように、私はその贈り物を頭に思い浮かべている。もちろん、スティーブのことも毎日思い出す。

「あなたを信頼できるかって聞いたの。そしたら、スティーブはこう言ったわ。

『ああ、すごくいい奴だ』って」

私も同じ気持ちだった。

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