ディズニー前CEOが明かす「古い常識」の破り方 「ブラックパンサー」の快挙とジョブズへの回顧

著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小
この偉大な会社のCEOとして、私はディズニーの創作物への意見をこれまでも多く聞いてきました。ですが、この仕事に就いてからの12年間で、『ブラックパンサー』に寄せられたほど圧倒的な興奮、賞賛、尊敬、感謝を受け取ったことはありません。多様な声と考え方を世の中に広めることがどれほど重要か、そして芸術とエンターテイメントの世界で多様性が表現され、鑑賞されることがどれほど社会に対して大きな力を持つかを、このことは教えてくれています。この映画の成功は、ディズニーという企業が大胆で独創的なプロジェクトを進めることに誰よりも前向きで、斬新なビジョンを完璧に実現する力があり、ヒーローやロールモデルや偉大な物語を必要としている世界に非凡な娯楽作品を提供することに全力を注いでいるという証でもあるのです。

「スティーブにここにいてほしかった」

マーベルへの投資がどれほどの成果をもたらしたかを、スティーブ〔・ジョブズ〕に見てほしかったと心から思う。おそらくスーパーヒーロー映画なんて彼にとってはどうでもよかったかもしれないが(それでも、『ブラックパンサー』と『キャプテン・マーベル』が業界の思い込みを覆したことを、喜んでくれたはずだ)、彼のおかげでアイクを説得でき、マーベルがディズニーのもとで大輪の花を咲かせたことを誇りに思ってくれただろう。

スティーブが亡くなって以来、何かに成功するたび、興奮の最中に「スティーブにここにいてほしかった」という想いがかならず心をよぎった。もし彼が生きていたら交わしたはずの会話を、頭の中で交わさずにはいられなかった。

2005年、クパチーノのアップル本社にて同社CEO のスティーブ・ジョブズと登壇。新しいビデオiPodでABCの番組を配信することを発表。両社の関係にとって大きな突破口になった。(写真:『ディズニーCEOが実践する10の原則』より)

2011年の夏、スティーブと彼の妻のローレンがロスの私たちの自宅に来てくれて、私たち夫婦と夕食を共にしてくれた。その頃にはスティーブはガンの末期で、ガリガリに痩せ、見るからに痛々しかった。元気はなく、しゃがれ声を絞り出して話していた。それでも、私たちと共に夕べを過ごしたいと言ってくれた。ひとつには、私たちが何年も前に成し遂げたことを祝うのが目的だった。私たちは4人で食卓を囲み、夕食前にワインを掲げた。「偉業を成し遂げたな。2つの会社を僕らが救ったんだ」

4人とも、泣きそうになった。スティーブの誰よりも温かく優しい面が現れた瞬間だった。ピクサーはディズニーの一部にならなければ今のような形の成功はなかったし、ディズニーはピクサーを取り込んだことでふたたび活力を取り戻せた。私は知り合ってまもない頃のスティーブとの会話を思い出し、彼に電話をかけた時どれほど自分が緊張していたかを考えずにはいられなかった。

次ページたった6年前のことなのに
関連記事
トピックボードAD
ライフの人気記事