ディズニー前CEOが明かす「古い常識」の破り方 「ブラックパンサー」の快挙とジョブズへの回顧

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私は、この手の古臭い「常識」が本当だとは思えなかった。そこで、どの新しいキャラクターを映画にできるかを話し合いはじめた。ケビンが挙げたのはブラックパンサーだ。ちょうど、『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』の中でブラックパンサーを登場させることになっていて、アランも私も興味を持った。『42〜世界を変えた男〜』でジャッキー・ロビンソンを演じ、数々の賞に輝いていたチャドウィック・ボーズマンがブラックパンサー役に決まっていた。チャドウィックは人を惹きつけて離さない演技力のある俳優で、彼がマーベル映画の主人公を演じる姿はすぐに目に浮かんだ。

同じ頃に、マーベルのテレビとコミック本の部門を率いていたダン・バックリーから、現代アメリカ文学の旗手として名高い作家のタナハシ・コーツがブラックパンサーのコミック本を書いていると聞いた。ダンにコミックを送ってもらい、タナハシがブラックパンサーのキャラクターに深みを与え、美しい物語にしていることに目をみはった。私はそのコミック本に没頭し、本を読み終える前に、私の頭の中の「かならず映画にすべきキャラクター」のリストにブラックパンサーを加えた。

黒人のスーパーヒーローものには客が集まらないと思い込んでいたのは、ニューヨークのマーベルチームだけではない。ハリウッドでは昔から、黒人キャストが大半を占める映画や、黒人が主役の映画は海外市場でウケないと思われていた。そのせいで、黒人が主役になる映画はあまり制作されず、黒人俳優の起用も少なく、興行収入が見込めないというリスクのせいで予算もつきにくかった。

過小評価されてきた市場を表に出すチャンス

私もこの業界に長くいるので、そうした古臭い「常識」はすべて聞き尽くしていたが、それがただ古く、今の世界にそぐわない、またあるべきでない思い込みだということもわかっていた。だからこそ、そこに偉大な映画を作る可能性があり、またアメリカの中で過小評価されてきた市場を表に出すチャンスでもあり、この2つの目標は両立できるはずだった。私はアイクに電話をかけ、ニューヨークのチームに邪魔をしないよう伝え、『ブラックパンサー』と『キャプテン・マーベル』をどちらも制作するよう命じた。

アイクは私の要求を受け入れた。早速『ブラックパンサー』の制作を開始し、そのあとすぐに『キャプテン・マーベル』が続いた。どちらも業界の予想をしのぐ興行成績をあげた。『ブラックパンサー』は史上第4位の興行収入を記録したスーパーヒーロー映画になり、『キャプテン・マーベル』は10位に輝いている。どちらの興行収入も10億ドルをはるかに超えている。どちらも海外で大成功した。そして、この2本の映画が文化に与えた影響はさらに大きい。

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