高給キーエンス出身の彼が退職し起業する理由 日本屈指の優良企業を離れ、求めた自由とは

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現に営業成績が芳しくないときも、本人だけでなく上長も協力しながら、チームで数値を達成しようという意識が浸透しており、上下関係も厳しくなく、フラットに意見しあえる環境だったと振り返ります。

昨今話題の働き方改革の影響か、労働時間にも変化がありました。従来21時45分だった「絶対帰社時間」が、21時半に短縮。また始業時間も、7時過ぎにはほとんどの社員がオフィスにいたのが、本来の始業時間だった8時半あたりに出社するよう指示が出たそうです。

望んだ生活を手に入れたのに、渇きは癒えなかった…

マネーモチベーションを満たす環境を手に入れたことで、生活スタイルも変わりました。主要都市に住む人は、タワーマンションに住み始め、郊外の人は高級車を購入。入社1年目から購入した同僚もいたといいます。

一時期は男性社員の割合が95%と、圧倒的に男性社会だったキーエンス。自然と社外に出会いを求めることとなります。

事実、同僚の多くは、年収というステータスがもたらす出会いの場を、大きなモチベーションにしていました。井上さんにとって、就職活動で求めた高収入で自由な生活は、ほぼ手に入ったと言えるでしょう。しかし、彼の心が満たされることはありませんでした。

「キーエンスに入ったことは、間違いなくいい選択でした。営業の基本を学び、あらゆる仕事で求められるコミュニケーション能力を磨くことができたからです」

井上さんは徹底して分業化された社内で、相手の心を動かす営業スキルを存分に鍛えることができました。一方で、その仕組みが不安にもつながっていました。

「よくも悪くも、キーエンスでは営業スキル『のみ』が磨かれました。テレアポから商談まで、絶対的な対人能力への自信はあるものの、資料作りは販売促進部頼り。販促ツールもグループがお膳立てしてくれます。20代後半で持つべきITスキルなども身につけることができなかったのです」

井上さんにとって、収入は自分の選択肢を広げ自由に生きるための、手段の1つという認識でした。キーエンス社員というだけで、多くの人々からエリートの印象を持たれます。

学生時代、年収1000万、1500万を稼げば、何でも自由になると思っていたのです。しかしお金を稼いでも、自分が思うような「自由」を手に入れた実感はありませんでした。

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