日本型プロセス産業 ものづくり経営学による競争力分析 藤本隆宏・桑嶋健一編 ~製造業の競争力判定に説得力あるアプローチ
本書はアーキテクチャと呼ばれる設計構想に注目して製造業の競争力をとらえようとする。やや耳慣れない言葉だが、モジュラー型とインテグラル型があり、パソコンは前者の、自動車は後者の代表例である。
パソコンはそれぞれの部品の独立性が強く、部品の組み合わせを自由に変えることができる。たとえば、パソコンのDVDドライブを他社製品に置き換えたとしても機能性が大きく変化することは少ない。このように組み立てが比較的自由なものがモジュラー型である。
一方の自動車では部品の取り換えは難しいといわれる。燃費のいい車、速い車を作ることは大切だが、乗り心地のような要素も重要である。部品を取り換えると走行中の振動が大きくなったりするのでは、商品価値は低くなる。一つひとつの部品の調整やすり合わせが乗り心地には大切だからだ。
こうした微妙な調整が必要不可欠なインテグラル型に、幅広い技能形成を促進してきた雇用システムと相まって、わが国の競争優位性があるというのが著者の従来からの主張である。
そして、この主張は自動車のような機械製品だけではなく、化学産業でも当てはまるという。化学産業といっても多様であり、そこにはインテグラル型もある。例としてアサヒビールのスーパードライが挙げられているが、ビールのコクとキレは自動車の乗り心地に似ている。こうした微妙なすり合わせが必要なものは、化学産業でも競争優位にあることが、さまざまな例をあげて語られている。
また、ものづくり経営学らしく、製品の仕組みだけでなく、その工程の仕組みについても詳細な分析がなされており、製品開発力の中身を深く知ろうとするうえで、本書のアプローチは説得力があり、貴重だ。
ふじもと・たかひろ
東京大学大学院経済学研究科教授。1955年生まれ。東京大学経済学部卒業後、三菱総合研究所を経る。ハーバード・ビジネススクールで博士号。
くわしま・けんいち
筑波大学大学院ビジネス科学研究科准教授。専門は経営学・研究開発マネジメント。1971年生まれ。東京大学大学院博士課程修了。経済学博士。
有斐閣 4095円 494ページ
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