日本の会社は「過剰は無価値」とわかっていない 水野学×山口周「これからの会社の価値」

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山口:そうですね。「マンモスの肉」は「腹が減った」という生理的な欲求に対するソリューションとして提供されるわけですね。

これはマズローの欲求5段階説で言えば「1段階目」の「生理的欲求」になります。マズローの欲求5段階説は「生理的欲求」から始まって「安全の欲求」「所属と愛の欲求」「承認の欲求」「自己実現の欲求」と上昇していきます。

今日の世界では「安全の欲求」や「生理的欲求」が十全に満たされる状況になって飽和してしまったので、さまざまな「欲求のレベル」に対応するビジネスが試行されています。

こういう世界において、人が欠乏感を抱くのはどんなときなのか? 言い換えれば、いまの時代において「何が価値になるのか?」を考える必要が高まっているわけですね。「価値」というのは絶対的なものではなく、社会のあり方によって変わっていくものです。

少なくとも、現在の日本では「マンモスの肉」ではビジネスにならないわけですね。ここで考えなければならないのが、現在の世界において「何が過剰で何が希少なのか」という論点です。これって当たり前のことで、「過剰になったモノ」の価値は下がるし、「希少になったモノ」の価値は上がるということです。

昔は欲しいものがたくさんあった

水野:たしかに、過剰だとありがたみがなくなりますよね。週に1度しか食べられないならステーキはごちそうだけど、毎日出てくると普通のおかずになってしまうみたいに。そうして似たものが世の中にあふれれば、おのずと単価も下がっていく。

昔は欲しいものがたくさんありました。昭和30年代半ばだと、そもそも冷蔵庫を持っている家がまだ1割程度だったから、みんな「冷蔵庫が欲しい」「テレビが欲しい」みたいな世の中だったと思いますし。過剰どころか全然足りていませんでした。

山口:今ではそういう「みんなが心から欲しいなあと思うモノ」ってなくなってしまいましたよね。水野さん、「欲しいものは何ですか?」って聞かれて、パッと出てきますか?

水野:そう言われると出てこないですね。僕だけじゃなくて、周りも結構そうかもしれない。

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