コロナで露呈「習近平vs.中国人」の危うい構造 「アメリカに謝ろう運動」を呼びかける声も

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李医師に発熱の症状が出たのは、後に新型肺炎で死亡する患者を診た10日後だった。李医師は、それから1カ月を待たず死亡する。

李医師がグループチャットに感染症の発生情報を流し、注意を促したのは12月30日。その患者を診たのは1週間後の1月6日である。もし病院や行政当局が、李医師の発信に対し「訓戒」ではなく「対策」を採っていたら、34歳の若者の命は失われずにすんだかもしれない。同医院では、5人の医療関係者が死亡している。

李医師の同僚の女医、艾芬(アイ・フェン)医師も原因不明の肺炎の発生を知りながら、上司や警察の圧力を受け、結局口をつぐんでしまった1人だ。彼女は中国メディアのインタビューに、もし発信し続けていれば「このような多くの悲劇は起きなかった」と悔やみ、当時の経緯をつまびらかにした。その記事は、発表直後、ネット上から削除された。

防疫対策の成果をアピール

3月10日、習近平国家主席は感染拡大以来、武漢を初めて視察した。感染を封じ込めつつあるとして、防疫対策の成果をアピールする意味があった。国営メディアが大々的に報じる中で、習主席は、医療従事者を「希望の使者であり、真の英雄」などとたたえた。

3月10日、習近平国家主席は感染拡大後初めて武漢を視察し、医療従事者を「希望の使者であり、真の英雄」などとたたえた(2017年10月25日の党大会時の写真)

先の艾芬医師のインタビュー記事が発表されたのは、この習主席の武漢訪問と同じ日だった。武漢の最前線で働く医師として紹介された。しかし、記事の原文とそれを転載したSNSの書き込みなどは、わずか3時間程でネット上から削除された。

なぜなのか。記事が、以下のような事実を明らかにしたからである。

艾芬医師は、武漢市中心医院の救急科主任。去年12月30日の段階で、感染症の発生に気づき、グループチャットで同僚らに警告した。李文亮医師が仲間に転送したのは、実は彼女が発したこの情報だった。

このために艾芬医師は、上司からは専門家がデマを流したと叱責され、「これまで経験したことのないような厳しい訓戒処分」を受けたという。インタビューからは、彼女がとても落ち込んだ様子が伝わる。さらに、武漢市の衛生委員会の通知として、情報を口外しないよう口止めされた。

「原因不明の肺炎について、勝手に外部に公表して、大衆にパニックを引き起こさないように。もし情報漏洩によってパニックが起きたら、責任を問う」

家族にも真実を言えなかった。夫や子どもに対し、人の多い所には行かないよう、外出するときはマスクをして、と注意するのが精一杯だった。

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