コロナで露呈「習近平vs.中国人」の危うい構造 「アメリカに謝ろう運動」を呼びかける声も

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病院の中も同様だった。ある医師は、外側に防護服を着るべきだと提案したが、病院は、防護服はパニックを引き起こすとして認めなかった。彼女は部下である救急科の医師には、白衣の下に防護服を着用するよう求めたというが、まったく理にかなっていなかった。

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「もし1月1日に皆が用心できていれば、このような多くの悲劇はおきなかった」

この記事は、一度は削除されたが、市民は黙ってはいなかった。元の文章や一部の文字を、ほかの言語や絵文字、暗号などに置き換え転載した。当局の検閲を逃れるためだ。甲骨文字版や漫画版もある。国民の生死に関わる事態にあっても真実を隠蔽しようとする国に対し、一矢を報いた形だ。

人々は、そうやって検閲の目を逃れ、彼女の言葉を共有した。

「立ち上がって本当の話をする人がいるべきだ。この世界には、多様な声があるべきだ」

中国の体制に疑問の声

未知なる感染症の拡大という非常事態に直面し、中国の体制に疑問の声が上がる。

人権派弁護士としての活動を理由に1年半にわたる身柄拘束を受けた経験を持つ謝燕益氏は、中国政府に情報公開を求めた。武漢市で最初に感染確認患者が出たのはいつなのか? 衛生当局は感染症が全国に拡散した場合の危険性の評価などが行っていたのか? さらに刑務所で感染が深刻な事態を知り、政治犯の釈放を呼びかけた。

『習近平vs.中国人』(新潮社)。書影をクリックすると、アマゾンのページにジャンプします

習近平氏の退陣を求める「勧退書」を発表したのは許志永氏。民主的な憲政の実現を目指す新公民権運動を提唱し、服役経験もある。許氏は現在、身柄拘束されている。

著名な人権活動家である胡佳氏は、この許志永氏や、先に触れた李文亮医師らに関する発言などによって、自宅で軟禁状態に置かれている。胡氏はSNSでこう伝えてきた。

「(中国当局が)恐れているのは社会の動揺です。普通の市民が、歴史を転換させるホイッスルブローワーになることを恐れているのです。李文亮医師のように」

体制とメンツを死守しようとする、その特殊な社会に翻弄されながらも果敢に立ち向かう庶民の闘いについては拙著『習近平vs.中国人』に詳しく書いた。なぜ、中国が新型コロナウイルスの感染拡大を許し、3000人以上の国民を死亡させ、世界への拡散を招いたのか。その根源的な原因をわかっていただけるかと思う。そして、日本とは違う体制の中にあっても、懸命に生きている私たちと同じような人たちがいることも。

宮崎 紀秀 ジャーナリスト

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みやざき のりひで / Norihide Miyazaki

日本テレビ報道局、社会部警視庁担当記者、外報部デスク、中国総局長などを経て現在はジャーナリストとして北京在住。主に「バンキシャ!」「ミヤネ屋」「ウェークアップ!ぷらす」など日本テレビ系列で放送する報道番組にコンテンツを提供。中国がらみのルポを得意とする。

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