転換期を漂う格闘技界、ブーム再燃を目指す“戦極”の挑戦と厚い壁
格闘技界が年に一度最高に盛り上がる大みそか。総合格闘技イベント「DREAM」を運営するFEG社は、ライバルでドン・キホーテ系の「戦極(せんごく)」と今年の大みそかに両団体の対抗戦を行うと発表した。谷川貞治FEG社長は「両団体が組むことで、視聴率の紅白歌合戦越えを目指す」と意気込む。
3カ月前の今年9月、戦極は大みそかのカードとして、所属する吉田秀彦選手と石井慧選手の柔道金メダリスト対決を発表していた。このときから、水面下で複数の民放キー局とスポンサー交渉を進めてきた。
だが結局、単独でのスポンサー獲得は果たせなかった。最終的には谷川社長が戦極の実質的オーナーである安田隆夫ドン・キホーテ会長に交渉を申し入れ、トップ会談で対抗戦が決まったという。FEG社としても吉田対石井は業界屈指の好カード。K−1の魔裟斗選手の引退試合とともに、もう一つ目玉が欲しいという思惑にピッタリ一致した。
自ら監視機関を設置 運営の透明性アピール
かつて隆盛を極めた日本の「総合格闘技」。打撃に加え、組み技、関節技を駆使した真剣勝負は多くのファンを熱狂させた。2003年大みそかには民放3局が試合中継し、その中の瞬間最高視聴率は40%超を記録した。だが現在は、ライバル同士が手を組まなければならないほど、勢いは失速してしまっている。
暗転が始まったのは06年。人気イベント「PRIDE(プライド)」が暴力団との関係を報じられ、フジテレビからスポンサー契約の解消を突き付けられた。収入源を絶たれたプライドは07年、米国最大の格闘技イベント「UFC」に買収され、その後事実上消滅。有名選手は次々と海外に流れた。日本ではイベント開催が滞ってブームは完全に鎮静化、1年近い空白を迎えることになる。
「このままでは日本の総合格闘技が終わってしまう」。崩壊の危機に立ち上がったのが、安田ドン・キホーテ会長だった。日本レスリング協会の福田富昭会長や木下工務店の木下直哉社長、吉田秀彦選手らの所属事務所社長である國保尊弘氏らも名乗りを上げ、ドン・キホーテを中心に運営会社ワールドビクトリーロード(WVR)を設立。新たなリングは「戦極」と名付けられた。かつてプライドを支援した有志による、格闘技復権への戦いが始まったのだ。