コロナ不況でも「最低賃金引き上げ」は必要だ ドイツとイギリスから得られる教訓とは何か

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イギリスも1999年に最低賃金制度を導入した際には、全国一律の基準を採用しました。このときも、ロンドン以外の地方では影響が大きく、とくに地方の中小企業は耐えられずに雇用を減らすので、ロンドンへの一極集中が進むという反対の声が上がりました。

イギリスで全国一律の最低賃金制度が導入されてから20年経ちましたが、実際はどうなったでしょう。実は、イギリスでもドイツも同じ傾向が見られます。最低賃金の導入による影響が大きいと考えられていた地方でも、雇用全体への影響はほとんどありませんでした。しかし、しばらくの間は、地方の雇用成長率は低迷していたことが確認されています。

「最低賃金引き上げ」で経営者を動かす以外に道はない

ここまでの話を総括してみましょう。

最低賃金の引き上げがなければ、雇用はもっと伸びたというのが学会のコンセンサスです。「雇用への影響」はこの事実を指します。

一方、最低賃金を引き上げると、離職する人が減ります。これは企業にとっては採用コストの削減というメリットになります。

「雇用への影響」が出るのは、生産性が低い企業です。最低賃金で多くの人を使っている企業ほど生産性が低い傾向にあるのは、世界的共通した傾向です。これらの企業では、コストの低い人力に頼っているため、最先端技術はおろか機械化も進んでいないところが少なくありません。しかし、最低賃金の引き上げを行うと、こういう企業からも生産性の向上を試みる企業が増えることが確認されています。

最低賃金が引き上げられると低生産性企業は「人を増やさなくなる」のが一般的ですが、生産性の低い企業が人を増やさなくなるのは、生産性向上の観点から見るとプラスです。

生産性の低い企業で働く人が全労働人口に占める比率が低下すると、国全体の生産性の向上につながります。このような動きが短期間に起きると、雇用全体への影響が顕著に現れますが、最低賃金の引き上げを徐々に行うと、経済全体で調整されるので影響はほとんど顕在化しません。

最低賃金の引き上げに反対の意を唱える人たちは、雇用の機会が減少してしまうので、若者や相対的にスキルの低い人が困ることになると反論するかもしれません。しかし、日本では、生産年齢人口は毎年約100万人ずつ減ってしまううえ、すでに180万人の外国人労働者を雇っているので、その心配は無用です。そもそも、生産性の低い企業に供給できる労働者は減っているのです。

また、この反論は事実にも反しています。安倍政権になってから最低賃金を継続的に引き上げた結果、何が起きたでしょうか。実は生産年齢人口が618万人も減ったにもかかわらず、最低賃金で働く人を中心に、雇用は371万人も増加しているのです。先ほど見たドイツと同じ結果が、日本でも起きているのです。

日本は高齢化が進むうえ、生産年齢人口が減るので、生産性を上げて賃金を上げるしか生き延びる道はありません。しかし、残念ながら大半の日本企業は、自発的に生産性を上げようとはしませんし、賃金も上げてはくれません。国が最低賃金を引き上げ、企業の変革を促すしか選択肢はないのです。新型コロナウイルスに対する緊急経済対策を打つときにも、この中長期的な使命に逆行してはいけません。

デービッド・アトキンソン 小西美術工藝社社長

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David Atkinson

元ゴールドマン・サックスアナリスト。裏千家茶名「宗真」拝受。1965年イギリス生まれ。オックスフォード大学「日本学」専攻。1992年にゴールドマン・サックス入社。日本の不良債権の実態を暴くリポートを発表し注目を浴びる。1998年に同社managing director(取締役)、2006年にpartner(共同出資者)となるが、マネーゲームを達観するに至り、2007年に退社。1999年に裏千家入門、2006年茶名「宗真」を拝受。2009年、創立300年余りの国宝・重要文化財の補修を手がける小西美術工藝社入社、取締役就任。2010年代表取締役会長、2011年同会長兼社長に就任し、日本の伝統文化を守りつつ伝統文化財をめぐる行政や業界の改革への提言を続けている。

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