コロナ不況でも「最低賃金引き上げ」は必要だ

ドイツとイギリスから得られる教訓とは何か

つまり、日本人の賃金を引き上げるということは、企業の平均規模を拡大させることを意味するのです。そのためには、企業を成長させなくてはいけません。しかし日本は人口が減少するので、何もせずに企業規模の拡大を期待しても、無理というものです。人口減少の下、企業の平均規模を大きくするために、日本では中小企業の合併・統合を推し進める方策が不可欠なのです。

2019年の『中小企業白書』では、全国の360万社の企業が2012年から2016年の間にどれほど成長したかを分析しています。それによると、例えば中小企業が中堅企業になるというように区分が変わるほど成長した企業はわずか79万社です。実に281万社は、そこまでの成長を達成できていないのです。

企業の成長がここまで鈍いと、生産性向上は起こりません。生産性向上を実現するには一定の規模が必要ですし、大半の場合、規模の拡大も伴います。

経済政策を考えるにあたって、これら一向に成長しない281万の企業を動かすには、何らかの刺激策が不可欠です。そして、これらの企業の成長を促す刺激策として有効なのが、最低賃金の引き上げなのです。

「最低賃金引き上げは雇用に大打撃」は迷信にすぎない

最低賃金の引き上げの影響に関しては、長年にわたって海外の学会で徹底的な検証が行われてきました。その結果得られたコンセンサスは、「段階的かつ適切に最低賃金を引き上げると、既存の雇用全体への悪影響は出ない。仮に影響が出たとしても、その影響は軽微である」というものです。

このコンセンサスは、最低賃金の引き上げが雇用に与える影響に関する膨大な数の論文の結果をまとめて分析する、「メタ分析」によって導かれています。イギリスの低賃金委員会が研究を依頼し、発表された「The Impact of the National Minimum Wage on Employment: A Meta-Analysis」という論文もその1つです。この論文では、2000件以上の論文の数値を確認して結論を出しています。

日本のアナリストの中には、1つか2つの論文を引っ張り出して「このコンセンサスは最新の研究によって否定されている」と主張する人がいます。もちろん、無理やり「最低賃金の引き上げは雇用への悪影響が大きい」と結論づけている論文を探そうと思えば、まったくないわけではありません。

しかし、メタ分析を行って、コンセンサスに影響を与えない程度の少数意見であれば、それだけを取り上げてコンセンサスに異を唱えるのは、アナリストとしてあるまじき行為です。

1つの論文の結果だけを取り上げて全体のコンセンサスを否定するのは、統計調査の結果、日本人男性の平均身長が171センチだと算出されているのに、「私は190センチの日本人男性をたくさん知っているから、平均身長は171センチではない」と言っているようなものです。

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