コロナ不況でも「最低賃金引き上げ」は必要だ ドイツとイギリスから得られる教訓とは何か
最低賃金が導入された結果、ドイツ全体では雇用が1.4%も増加しました。面白いのは、最低賃金以下で働く人の割合が最も高い20業種での増加率は1.8%で、そのほかの業種の1.3%より高かったことです。最低賃金近くの賃金で働く人に悪影響が出ると言われていたのですが、ドイツでは真逆の減少が起こったのです。
ドイツでは最低賃金の導入の後に「ミニジョブ」が大きく減少したものの、全体の雇用の増加につながったと指摘されています。「ミニジョブ」とは、報酬が月450ユーロ以下で、労災保険以外の社会保険の適用されない職業です。所得税も免除されます。
最低賃金が導入された1年目に「ミニジョブ」は15万2600人分も減少して、2016年にも4万2448人分減少しました。このことだけを見れば、反対派は「ほれ見ろ、最低賃金を引き上げると、低所得者の失業が増えるではないか」と騒ぎたてるかもしれませんが、それは早合点というものです。
実は、ドイツが最低賃金を導入した際、「ミニジョブ」の書類提出規制なども強化されました。そのことが雇用者側にとって、非正規雇用者を正規雇用に変更するインセンティブになりました。また、最低賃金が導入されたことによって1時間当たりの賃金が上がったので、より多くの人がより短時間で「ミニジョブ」の報酬上限である450ユーロに到達することになりました。
月額の報酬が451ユーロ以上になると、「ミニジョブ」からアルバイトの扱いになるので、統計上は「ミニジョブ」が減少して、アルバイトが増えることになります。「ミニジョブ」の減少数約20万人のうち約半数が、社会保障が適用される雇用に切り替わったと分析によって明らかにされています。
日本への教訓
これは日本にとって大切な事実です。日本では最低賃金で働いている人の大半は女性です。厚生労働省の分析によると、2014年の数字では、最低賃金×1.15未満の賃金で働いている人のうち、72.6%を女性が占めているとされています。
日本にはいわゆる150万円の壁など、女性が自らの収入を低く抑えてしまいかねない制度があるので、最低賃金を引き上げていくと、その分だけ雇用者側が労働時間を短くしなくても、働く時間を減らす労働者が増えることが十分考えられます。
また、“Reallocation effects of the minimum wage: Evidence from Germany"という論文によると、ドイツが最低賃金を導入した結果、解雇される可能性は上昇しなかった一方、自主的に中堅企業に転職する人が増えたとされています。賃金の上昇の80%は、それによって達成されたそうです。
ドイツの事例の分析を探しても、女性やアルバイト、または外国人労働者への影響はまったくないわけではないが軽微で、正規雇用への影響はほぼないという結論のものしか見つかりません。しかも、旧東ドイツ地域での影響が大きくなると懸念されていたにもかかわらず、これもほとんどなかったとされています。
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