主要な国際空港では外国人の入国制限も実施しているが、入国者の体温検知も厳密なものではなく、機器の故障や不調で「体温33度」などという結果が出るケースもあるという。こうしたインドネシア独特の緩さが感染対策でもあらゆるところで遺憾なく発揮されているのが実情である。
首都ジャカルタ特別州のアニス・バスウェダン知事は感染拡大防止策として16日から通勤の足である地下鉄(MRT)の営業時間をこれまでの午前5時~午前0時までから午前6時~午後6時までに制限し、5分~10分の運転間隔も20分に間引き、さらに車両1編成の乗車制限も300人から60人に制限することを実行した。
ところが、MRTの主要駅では朝から通勤者による長蛇の列ができ、車内での感染を防ぐために乗客制限を設けても、長時間の行列で感染する可能性の方が高いと市民の怒りが爆発する事態に。16日夜になってアニス知事は「交通機関の運行はすべて平常運転に戻す」と表明した。結局16日一日だけで消えた交通機関の運行制限は「朝令暮改の典型」としてマスコミなどから厳しい批判を浴びる結果となった。
運輸相の感染が発覚
首都を含めた「都市封鎖」に関しては、ジョコ・ウィドド大統領が「現時点で考えてもいないし、地方政府が独自に行うこともできない」としてその可能性を否定した。一方、ユスフ・カラ前副大統領が「今後の感染拡大の状況によっては都市封鎖も選択肢として考えるべきだ」と、発言するなど考えの違いが露わになる混乱ぶりもインドネシアらしいとマスコミからは評されている。
政府の慌てぶりも相当なものだ。毎日のように記者会見、ぶら下がり取材に応じていたジョコ・ウィドド大統領や閣僚だったが、14日にブディ・カルヤ運輸相の感染が伝えらえると、ジョコ・ウィドド大統領や大半の閣僚が15日以降慌てて大統領官邸に近い陸軍病院に押しかけて感染の検査を受ける事態となった。
これまの検査結果では、運輸相以外の陽性者は確認されていないが、運輸相感染発覚以後の閣議や重要な会議は大統領官邸の執務室に座るジョコ・ウィドド大統領と関係者がテレビ画面を通じた「ネット会議」に変更され、ポツンと座った大統領がマイクで画面の相手に話しかける様子がテレビを通じて全国に放送されている。
ジョコ・ウィドド大統領は16日、「現時点でより必要なのは人の移動を最小限に抑えることだ」との考えを示し、一方で地方自治体の首長に対し「何らかの対応策を講じる前に、政府の判断を待ってほしい」と、地方自治体が独自に感染対策を講じることに釘を刺した。
背景には、11日にインドネシアで初の感染者の死者が出たケースで、政府保健省が大統領の「感染者の個人情報は開示しない」との方針に基づき、「外国人」としか公式に発表しなかったにもかかわらず、死亡したバリ島の病院当局が「53歳の英国人観光客の女性」と開示したことが影響しているとされる。
ジョコ・ウィドド大統領の発言は要するに、「感染対策は政府が中心になってやる」ということの意思表示。政府はすでに新型肺炎感染症に関する特別作業チームを組織して、国家災害対策庁(BNPB)の長官をトップに据えて保健省とともに情報の一元化、管理を進めている。
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