「キリンは株主無視だ」英投資ファンドの言い分 トップが語る日本企業のガバナンス不全
――IFPは、キリンHDの子会社である協和キリンを売却するよう求めています。キリンHDの中で協和キリンの2019年の事業利益は554億円で、国内ビール・スピリッツの852億円に次ぐ成長中の収益柱です。協和キリンを手放すことで経営に影響はないのでしょうか。
まず、質問の前提が間違っている。協和キリンは「成長中の収益柱」ではない。協和キリンの利益はこの7年間伸びていない(注:IFPは協和キリンの過去7年間のEBITDAを独自に計算しており、そのデータに基づいて発言している)。キリンは投資家に対し、協和キリンが成長中の収益柱だと認識してほしいわけだが、それは事実ではない。
さらにこの13年間、キリンは医薬品事業に投資し続けてきたが、発酵技術を使った新製品は過去13年ほとんど出ていない。キリンは協和キリンをグループに持つことに経済的なシナジーがあると主張しているが、それには信ぴょう性がないと言わざるを得ない。
事業ポートフォリオの中に医薬品会社を持つのは、極めて効率性が低い投資の仕方だ。
ビール事業に集中すれば株価は上昇する
――協和キリンの当期利益は2018年から2019年で23%も伸びています。
私たちが出しているのは7年間のデータだ。私たちは長期保有の投資家で、1年という短期的見方はしていない。
――協和キリンが最近上市した薬は、今後10年ほどは欧米において稼ぎ頭になると見られています。
これはポートフォリオの非効率性の問題だ。その薬が利益を生むことは協和キリンにとっては歓迎すべきことだと思うが、私たちはキリンHDの株主として、わざわざその非効率な事業を持つ必要がないと感じる。協和キリンの株式を売却すれば、キリンはビール事業に焦点を絞ることができ、それによって株価が上昇することは間違いない。
ビール事業に専心する方がよい結果をもたらす例として、アサヒグループホールディングスがある。(IFPの独自試算による)過去15年の(配当再投資後の)トータルリターンをアサヒとキリンとで比べると、キリンはこの15年間で212%増えたのに対し、アサヒは400%近く伸びた。
キリンの経営陣は株主に根拠のない懸念を抱かせている。キリンHDの磯崎功典社長は事実に即していないことを言い回るのをやめた方が良い。
――売上高が成長しなくとも、利益は向上するという見込みなのでしょうか。
そうだ。特に改善するのは投下資本利益率(ROI)と収益性だ。これは当然ながら会社にとってプラスだ。キリンの株価を見ると、2018年までは株価が上昇している。これはキリンが非中核事業の資産を売却した時期と重なる。確かに売り上げ規模は縮小したかも知れないが、資本効率が高まったと市場が評価してROIが上がり、株価も2014年ごろの1200円台から2018年4月には約3200円と倍以上に高騰した。
キリンは非中核事業の資産を売却した時期があるにもかかわらず、2019年になって路線を変更し、多角化戦略を強調するようになり、株価が下落した。戦略が正しい方向に進んでいると株主が考えていれば株価は上がって当然であって、下落するはずはない。
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