”ヤンキー管理職”の下は死屍累々 精神科医・斎藤環×歴史学者・與那覇潤(4)

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左版のヤンキー??

斎藤:左版のヤンキーですか、あれは?

與那覇:ある時期まで「自衛隊違憲論」が根強くあって、「“戦力は、これを保持しない”って書いてあるんだから、違憲だろ。はい論破」みたいになっていたわけですよね。現在の自民党改憲派の憲法の読み方も幼稚だけど、ちょうどそれを左側に裏返したようなレベルで戦後左翼もやってきた。だけど、そこまでヤンキー並みにシンプルな感覚で訴えてきたからこそ、社会党は長きにわたって国会での3分の1を堅持できていたんだと思います。

55年体制は、ヤンキーがプレイしても大失敗しないようにチュートリアルされたゲームだったんですね。いわば初心者でも操縦できる「補助輪付きの民主主義」だったのを、左のインテリたちがやっぱり補助輪を外さないと本当の民主主義じゃない、と考えて試してみたのが、93年以降の20年間でした。そこでいう補助輪とは自民党の一党支配のことだったのですが、それは失敗して、今度は安倍さんたち右のヤンキーが、軍事的な米国依存という別の補助輪を外そうとしている。要するにアメリカの防衛システムに組み込まれて、頭を抑えられているのが気に食わんから、それを外して靖国くらい自由に行ける、戦争も任意にできる国にしようぜと。

斎藤:九条については悩むところもあって、私としては憲法と軍備の矛盾に悩み続ける内省性という「正気」が重要であるとさしあたり考えていますが、歯切れが悪いことは事実です。柄谷行人さんなどはもっと過激に贈与としての軍備の放棄を提案していますが、これは理性的判断と言うよりは“贈与という狂気”の擁護にみえる。いずれもヤンキー層には到底アピールしそうにないアイディアです。わずかな救いは、やはりヤンキーは国益など顧みないし、良くも悪くも関心領域が親密圏止まりなので、意外に好戦的ではない点でしょうか。

片山杜秀さんは『未完のファシズム』で、明治憲法の定める国家体制が多元化された権力分立体制であったため軍の暴走が止められなかったという問題と、この体制ゆえに日本では権力一極集中が起こらず未完のファシズムに終わるほかはなかった点を指摘されていますね。私はヤンキーの反知性主義も、思想や言葉が感覚可能な身体性を超えることを許さないため、革命も起こせない代わりにファシズムや極右のような過激化にも歯止めになるとは考えています。それは安心できる面もありますが、少しでも社会を変えようとすれば、常にヤンキーの分厚い壁が……。

與那覇:立ち塞がりますよね。個人的には、そういうこの国の体質自体をなんとかしたいと思うのですが、敗戦で変えられなかったものがそうやすやすと変えられるとは思えなし、おっしゃるように“より悪く”変わってしまう危険性もあります。今より開かれた“ヤンキーがプレイ可能な民主主義”のモデルを、細々とめざしていくしかないのかもしれませんね。

今回で全4回の対談は終了です。続きは『ヤンキー化する日本』にて、お楽しみください。

 

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