”ヤンキー管理職”の下は死屍累々 精神科医・斎藤環×歴史学者・與那覇潤(4)

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與那覇:僕なんかむしろ多数決主義どころか、国会では総理大臣も含めて一様に「君づけ」で呼ばれるところが、日本人にとっての民主主義なんだろうなと思っていますね。

斎藤:あれはいつからなんですか?

與那覇:きちんと調べたことはありませんが、帝国議会の速記録を見ると、どうも最初期からたとえば予算委員長が「総理大臣松方〔正義〕君が、予算に就いて説明したいと……」みたくやっていたようですね。個人的にいまでも印象に残っているのは、93年の非自民・非共産連立政権のとき、土井たか子さんが女性で初めて衆院議長になって「細川護煕さんを、内閣総理大臣に指名することに……」と「さんづけ」でやりましたでしょう。僕は中学生でしたが、“日本がはじまったな感”があったのをすごく覚えてるんですよ。

斎藤:ちょっと進歩したという。

與那覇:音として開かれた感じでしたよね、議長が代わるとすぐ戻ってしまいましたが。日本人にとっての民主主義では、政権は自民党に基本ずっとお任せだけど、その偉い自民党の総理大臣様でも、国会に出てくれば君づけだと。あの「安倍晋三くーん」「はいっ」ってやるときの一見平等な感覚が、ヤンキーにいちばんマッチする民主主義観なのかなと思いますね。

究極の無責任体系

斎藤:ヤンキーカルチャーは一見、タテ社会的に見えるんですけど、一方では下剋上もあり、だったりして、ダブルスタンダードなところも見られるんですね。

與那覇:山本七平は人間教を批判する反面で、その「裸になればみな同じ」が一種の平等主義であることを評価もしました。彼は下剋上についても面白いことを言っていて、別に下のものが上のものを殺しちゃうのが下剋上ではないと。むしろ上のヤツをお神輿に祀り上げて、彼を支えるためという名目で下が実権を握るのが下剋上だという。

実は丸山眞男も晩年の「政事の構造」という講演で、まつりごとが「祭事」から来るというのは間違いで、正しくは「奉仕事」だという本居宣長の見解を引いているんですね。つまり天皇のような日本のトップは統治に正統性を与えてあげるだけで、実質的な意思決定は彼らを「奉って」いる、下のものがやるのが日本では常態なんだと。

斎藤:お神輿なら一人ぐらいぶら下がっていても関係ないといった無責任な体系の完成形みたいなところで、「中心が空虚でもかまわない」となってくるわけですね。半藤一利さんの『日本型リーダーはなぜ失敗するのか』(文春新書)にも、同様のことが書かれていました。

「参謀重視」の日本型リーダーシップ、すなわち「お神輿に担がれているだけ」の無能なリーダーと、その権威を笠にきて権限を振りまわす参謀の組み合わせですね。権限と責任が乖離したこの権力構造が、犠牲者300万人以上を出した太平洋戦争の惨状をもたらしたと。いまや無謀な作戦の代名詞ともなったインパール作戦を発案・指揮した牟田口廉也は、7万人が餓死している最中に水垢離で気合いを入れていたそうで、ヤンキー的な中間管理職の暴走の後は死屍累々という風景は、昨今のブラック企業に受け継がれています。

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