大収縮 検証・グローバル危機 日本経済新聞社編 ~次代の産みの苦しみを示唆する同時代史
米国有力経済紙が後に「野蛮な来訪者」(Barbarians at the Gate)と題して本にした連載記事を思い起こさせる。本書執筆の記者たちは独占インタビューを交えて、リーマンショックと総称される経済、金融の大事件の前後史を一つの物語として解き明かそうと試みる。
米国投資銀行リーマン・ブラザーズの破綻を「9・15」の衝撃と題して書き起こす1章に始まり、金融当局の苦悩と対応を描く2章、歴史的な金融危機となった原因を探る4章に加えて、混迷と模索の続く現状を描写する5章、危機に立ち向かう経営者の発言を収録する3章という構成を取る。新聞記事ではほとんど取り上げられなかった、日本の金融機関が絡むリーマン救済秘話、危機の中心にあったのはリーマンではなくAIG(保険会社)であったとの謎解き、そのAIG救済をめぐる米国政権内での葛藤と対立、急速な信用収縮によりトヨタ自動車でさえ、翌日物の資金しか取れなかったうちわ話などが満載だ。
あまりに短いインタビュー群には不満も感じるが、面白いものもある。たとえば、金融危機が国家にまで飛び火したラトビア首相の語るユーロ参加への熱い思い、GE会長が告白する自社の金融事業に対する市場のきわめて低い評価、元FRB副議長による「何であれ市場は正しいと信じる傾向の強かった」グリーンスパン前議長に対する批判とこぼれ話などである。
表題にあるcontractionとは分娩時の収縮作用のことを指すが、現在は新たな経済金融体制が誕生する苦痛に満ちた前触れととらえれば、英語の副題には味がある。素材はどんと提供され、まだ調理されていないといった趣はあるが、リーマンショックに絡む現代史を一覧できる年表とグラフが多くあるのはありがたい。
日本経済新聞出版社 1785円 295ページ
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