そもそも、どうして「あなたが人生で実現したいことは何か」「仕事を通して何を成し遂げたいのか」……のような問いが繰り返されるようになったのだろう。その主な理由は、大きな成果を上げられる優秀な社員ほど主体的に仕事に取り組むからだと言われる。彼らの主体性は、自分の夢が原動力となって発揮されている。
それは、「将来は独立・起業したい」「社会課題を解決し、困っている人を助けたい」といった仕事に関連したものから、「老後は海外に移住したい」「将来、子どもが自慢できる親でいたい」といったパーソナルな夢でもいい。
「自身のありたい姿が明確で、その実現の手段として今の仕事を意味づけられている人」ほど実行力・推進力が高いと言われており、読者のみなさんが身近な人たちを思い浮かべてもこの傾向は一定程度は当てはまるのではないか。
「人間は自己実現に向かって絶えず成長する」
自己実現は、心理学者のアブラハム・マズローが提唱する人間の欲求5段階でも最上位に位置し、マズローは、「人間は自己実現に向かって絶えず成長する」と説いている。つまり、会社や上司は社員一人ひとりにとっての究極のゴールを引き出し、その実現に向けた支援をすることで、社員がつねに成長を続け、組織に大きな成果をもたらすことを期待しているのだ。
こうした考え方には筆者自身も賛成だし、企業のマネジメント方針としても、企業と個人の相互のゴール実現につながるのであればとても望ましいことだ。ただし、行きすぎたマネジメントや、やり方を間違えたことによって弊害が起きている企業が近年急速に増えているのもまた事実だ。
とくに今の管理職は、まさしく1990年代~2000年代に社会人となった世代が中心。自分が受けた育成・指導と同じ感覚で「やりたいことは、WILLはないのか」「もっと大きな夢を持て」と部下に迫っていく。
知らず知らずのうちに「WILLハラスメント」だと感じさせているかもしれない。第一、まだ社会に出て日の浅い社員なら、人生をかけて成し遂げたいものをイメージできるほうが少数派なのが実態だし、それはまったく攻められるものではない。
エッグフォワードのコンサルティングシーンで見るに、このWILLハラの厄介なところは、上司側は自覚がないが、今は人生の目標を語れない人にとって、自己を否定されたように感じてしまうことだ。
それにもかかわらず、上司は「もっと大きな目標はないのか?」「目指す立場やゴールは?」「世界を変えたいと思わない?」「解消したい社会課題は?」と繰り返してしまう。
能力や知識が不足しているのであれば、これからいくらでも挽回しうるが、そこまではありません……と、うまく夢を語れない経験が繰り返されると、自分の生き方が悪いようにも感じられる。
上司が悪気なく続けていたコミュニケーションが、不必要に社員を追い詰めてしまうという、典型的なハラスメントの構造だ。WILLを問いすぎて、本人が会社に行けなくなるというケースも増えているのだ。
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