安田顕「テレビでは収まりきらない」変態的魅力 凡人から変人まで自在に憑依する愛され俳優

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地上波でお目にかかれるのは「やさぐれ」である。タバコのハイライトやセブンスターが似合う、叩き上げの剛情な刑事といえば、私の中では蟹江敬三か大地康雄だった。

「小さな巨人」(TBS・2017)でひとりだけやさぐれ感満タンの所轄刑事を演じたときには、第2の蟹江敬三と確信した。しかも足が臭い。足が臭いというのは、いかに足で地道に捜査しているかの証しでもあり、刑事のプライドでもある。画面からはそのニオイが漂ってきそうだった。

米澤穂信原作の3夜ドラマ「満願」(NHK・2019)の第2夜「夜警」では、交番勤務の巡査役を演じた。新人(馬場徹)の教育係だが、鋭い眼光と洞察力に元刑事という説得力がある。1時間のミステリー短編だが、満足度は高かった。やさぐれてはいるが倫理観と人情はある。人としてまっとう。そこがカニエ的でダイチ的。以後、ヤスケン的と呼ぶことにする。

やさぐれでも、卑屈で意地悪なパターンも極上だ。「いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう」(フジ・2016)では、金の力で有村架純と結婚させるよう親に迫ったものの、有村から断られる男の役だった。虫酸が走るタイプの田舎成金で、ほんの少しの出番なのに強烈な印象を残した。

たぶん「重版出来!」(TBS・2016)の皮肉屋な漫画編集者役のほうが多くの人の記憶に刻まれているかもしれない。仕事はできるが、冷淡で人を見下す言動が多い。過去の悲劇がそうさせているという同情すべき背景も納得だが、ヤスケンがへの字口でイヤミを言ったり、嘲笑する表情には「好かれようとは1ミリも思っていない」達観があった。

ウケがいい「しょぼくれ」

最後は「しょぼくれ」である。ねじけたり、こじれたり、いじけたりしているヤスケンは万人受けするといっても過言ではない。「嘘の戦争」(フジ系・2017)では、詐欺師の主人公・草彅剛のターゲットとなる一家の長男だが、仕事ができず、父(市村正親)や弟(藤木直人)から軽視されている役どころ。親子間・兄弟間の劣等感と諦観がじわじわと伝わってきた。

しょぼくれの最高峰は今のところ「俺の話は長い」(日テレ・2019)だ。キャリアウーマンの口うるさい妻(小池栄子)の実家で、ウザイ義弟(生田斗真)や懐かない娘(清原果耶)にどやされる、元ミュージシャンの夫役。やたらと牛乳を早飲みしていた時代を彷彿とさせる、いじられ加減。全国の夢破れてしょぼくれたお父さんを味方につけ、全国の働く妻から舌打ちされる、ある意味でマスオさん級の国民的キャラだったと思う。

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