安田顕「テレビでは収まりきらない」変態的魅力 凡人から変人まで自在に憑依する愛され俳優

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もちろん、しょぼくれるだけではない、穏やかで心優しい善人や家族思いの温厚な人の役も評価は高い。あれだけ死んだ目で心の闇を見せておきながら、真逆の「人を信じて疑わない」目もできるのだから。

主演作も増えてはきたが、まだまだテレビドラマ界で評価されていない気がする。もっと評価されるべきだ。時々「ああ、これ、こんなアイドルじゃなくてヤスケンが演じれば、もっと説得力と迫力が出たのになぁ」というドラマもちらほら。年齢的にも、実力的にも、役柄の特性からいっても「ヤスケンだったらな案件」は意外と多いのである。

全ヤスケンを詰め込んだバリューセット

はぐれ・やさぐれ・しょぼくれのヤスケン、そして純粋で優しいヤスケン、とにかくヤスケンの魅力をすべて詰め込んだ作品があったので、おすすめしておきたい。映画『愛しのアイリーン』(2018)である。

(写真:映画『愛しのアイリーン』公式サイト http://irene-movie.jp/

ヤスケンが演じるのは、寂れた田舎町で両親と住む42歳の男。パチンコ店勤務だが、愛想なし甲斐性なし恋人なし。性欲だけは旺盛。同僚の子持ちバツあり女性(河井青葉)に好意を抱くも、「本気は困る」と距離を置かれる。しかも彼女はほかの男性と関係しまくりという話を聞いて、一念発起。300万円払って、フィリピンの花嫁探しツアーに参加する。そこで出会ったのが、まだ年端も行かぬアイリーン(ナッツ・シトイ)だった。

これ、本当に俳優・安田顕の魅力をすべて凝縮して詰め込んだような傑作だ。それでいて「俳優のプロモーションビデオのような悦に入る作品」ではない。社会派サスペンスであり、迫力のあるドキュメンタリーのような味わいもあるが、エロスとバイオレンスでしっかりエンターテインメントになっている。もちろんヤスケンだけでなく役者全員が熱演で適役でもある(とくにヤスケンの母親役、木野花の鬼気迫る狂気は必見)。

「若い娘にヤスケンが振り回される」構図をドラマに仕立てるなら、このくらいのレベルできっちり面白さやリアリティーを追求してほしい。

テレビドラマに多くを求めすぎ? いや、本当に各局が差別化を目指さないと、テレビドラマが廃れちゃうし、みんな見向きもしなくなるよね。

吉田 潮 コラムニスト・イラストレーター

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よしだ うしお / Ushio Yoshida

1972年生まれ。おひつじ座のB型。千葉県船橋市出身。法政大学法学部政治学科卒業後、編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。医療、健康、下ネタ、テレビ、社会全般など幅広く執筆。2010年4月より『週刊新潮』にて「TVふうーん録」の連載開始。2016年9月より東京新聞の放送芸能欄のコラム「風向計」の連載開始。テレビ「週刊フジテレビ批評」「Live News it!」(ともにフジテレビ)のコメンテーターもたまに務める。

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