JFEの巻き返し戦略、インド市場開拓へ一手
最後発のJFEスチールが反転攻勢に出る。同社はインド大手の民間鉄鋼メーカー、JSWスチールと包括的提携契約を締結。自動車用高級鋼材技術などを供与し、将来的には自動車分野以外の鋼材供給や相互出資なども視野に入れている。
インド進出を決めたのは、鉄鋼需要の急拡大が背景にある。2009年の鉄鋼消費量は前年比1割増になる見通しで、中国、米国に次いで3位に急浮上する勢いだ。来年にはトヨタ自動車と日産自動車の新工場が稼働を予定するなど、日系自動車メーカーの現地生産拡大の動きも大きい。今後、需要増加が確実に見込まれる中、競合の新日本製鉄はタタ製鉄と提携し先んじていたが、これを巻き返す格好といえる。
提携相手のJSWは特に高級鋼材の製造に強みを持つ。今後は共同して、現地進出するメーカーに対して自動車用鋼板の供給拡大を狙う。薄型で強度に優れる、「高張力鋼板(通称ハイテン)」などは初期工程から作り込む必要があり、インドメーカーの技術だけで高品質品を作ることが難しい。そこでJFEが半製品を日本国内で製造し、JSWへ供給。さらに溶融亜鉛メッキ鋼板などの製造技術供与も行う見通しだ。
高級路線の浸透力
JFEにとっては、半製品の新たな顧客が増える意味合いも大きい。これまで中国や韓国メーカーへ半製品を提供してきたが、各国では高炉増設が進行中。中期的に取引が減少するおそれがあった。ほかにも利点はある。JSWは2020年までにインド北東部に二つの製鉄所を建設する計画で、同拠点への資本参加も検討している。仮に出資となれば、インドでも日本並みに高級鋼材の一貫製造の道が開ける。提携会見で、「JSWのジンダル社長によれば『インドでは供給が需要を創り出す』。つまり、世界レベルの品質とコスト競争力、供給力があれば需要は必ず生まれるはず」(JFEスチールの林田英治副社長)と自信を見せていた。
一方、日本式の高度な技術や製品をそのまま持ち込むことには疑問の声が上がる。「さびを防ぐための亜鉛メッキ鋼板が、温暖なインドで必要なのかどうか」(高炉大手幹部)。
そもそも、低価格車の需要が高いインドでどこまで高級鋼材が必要とされるかも未知数だ。たとえばハイテンにしても、日本で必要とされる品質がインドで採用されるとは限らない。新日鉄や神戸製鋼、住友金属などライバルが現地企業と提携しながらも、具体案を打ち出せずにいる理由はそこにある。
あえて高級路線で勝負するJFE。どれだけインド市場に切り込めるか。
(山内哲夫 =週刊東洋経済)
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