映画の題名を「レ・ミゼラブル」にした真の狙い

郊外団地の現実描く仏映画が評価された理由

――本作もベースにあるのは「貧困」ですね。

ラジ・リ監督:そうですね。僕の映画では、いわゆる富裕層と貧困層との対立ということを描いているわけではないですけども、システムとして警官に暴力を振るわれるマイノリティーの住人たちといったものを描いています。確かに「アラブの春」以来、香港の大規模な民主化運動など、世界的にそうした機運が広がっている。だから、ささいなことで体制に反旗を翻すといったことがあるんじゃないかと思います。

映画は2018年のワールドカップで優勝に沸くパリ市内の光景からはじまる ©SRAB FILMS LYLY FILMS RECTANGLE PRODUCTIONS

――監督は、本作の舞台となっているモンフェルメイユに住んでいて。スティーヴさんをはじめ、近所の人たちをキャスティングしたとのことですが、皆さん顔見知りだったというわけですか。

ラジ・リ監督:そうですね。モンフェルメイユは小さな街なんで、みんな顔見知りです。だからここで映画を撮るということで、みんな喜んでくれましたね。映画に出演するなんて、子どもたちにとっては夢のような話ですから。そうした経験ができるということで、喜々として演じてくれましたよ。完成した映画を観たときも、自分たちが映っているということで、感動してくれていましたね。

作品に文句を言う勢力は少なくない

――この映画は、フランスではなかなか作りづらかったそうですね。

ラジ・リ監督:もちろんこの映画がすべての人に受け入れられたわけではなくて。とくに“ネトウヨ”には嫌われています。まあ、彼らだってマイノリティーなんですけどね。この映画がアカデミー賞でフランス代表になったことに文句を言う人もいたし、この映画を観て不快に思った人もいる。しかし何よりこの映画が存在し、メッセージが伝わったことがいちばん重要なんです。

来日時に取材に応じる、スティーヴ・ティアンチュー(左)とラジ・リ監督(右) (筆者撮影)

――日本でも、是枝裕和監督の『万引き家族』がカンヌ国際映画祭でパルムドールを獲得した際にも同じような反応がありました。

ラジ・リ監督:1年半前は、この作品ができるかどうかさえもわからなかった。お金を出資してくれる人が現れなかった。それでもこの映画を簡単には投げ出さないと思っていたんです。どんなに時間がかかったとしても、やり遂げるんだという強い意志を持ち続けました。

それが今、フランスでも大ヒットして、世界的にも評価されたわけですから。そうした人たちには「シャラップ(黙れ)」と言いたい気持ちですよ(笑)。

スティーヴ:諦めないというのは僕らのルーツから来ているんだと思う。僕らの中には、つねに戦うんだという精神がある。それは、そうしないと生き残れないというマインドだ。今は、昔とは状況が変わっていて、社会的に成功しないと悲惨な状況からは抜け出せない。成功するまでやり続けることは、僕らにとっては責務でもあります。

次ページスラム化する「団地」が舞台
ライフの人気記事
トピックボードAD
関連記事
  • 新型コロナ、長期戦の混沌
  • 新型コロナ、「新しい日常」への前進
  • 就職四季報プラスワン
  • 見過ごされる若者の貧困
トレンドライブラリーAD
人気の動画
早慶上理・MARCH・関関同立、少子化でどうなる?
早慶上理・MARCH・関関同立、少子化でどうなる?
築40年超「老朽マンション」丸ごと建て替えの大問題
築40年超「老朽マンション」丸ごと建て替えの大問題
山手線2日間運休「渋谷駅大工事」何をどう変えた
山手線2日間運休「渋谷駅大工事」何をどう変えた
「料理が突然、上手になる」たった1つの簡単秘訣
「料理が突然、上手になる」たった1つの簡単秘訣
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
トレンドウォッチAD
日米の躍進銘柄を総まくり<br>発掘! 未来の成長企業

米国の株式相場上昇に目を奪われがちですが、日本でも未来を牽引する成長企業は確実に育っています。本特集では「新興成長企業」や「トップの通信簿」などのランキングを掲載。GAFAMやメルカリの次の新主役を探しましょう。

東洋経済education×ICT