――本作もベースにあるのは「貧困」ですね。
ラジ・リ監督:そうですね。僕の映画では、いわゆる富裕層と貧困層との対立ということを描いているわけではないですけども、システムとして警官に暴力を振るわれるマイノリティーの住人たちといったものを描いています。確かに「アラブの春」以来、香港の大規模な民主化運動など、世界的にそうした機運が広がっている。だから、ささいなことで体制に反旗を翻すといったことがあるんじゃないかと思います。
――監督は、本作の舞台となっているモンフェルメイユに住んでいて。スティーヴさんをはじめ、近所の人たちをキャスティングしたとのことですが、皆さん顔見知りだったというわけですか。
ラジ・リ監督:そうですね。モンフェルメイユは小さな街なんで、みんな顔見知りです。だからここで映画を撮るということで、みんな喜んでくれましたね。映画に出演するなんて、子どもたちにとっては夢のような話ですから。そうした経験ができるということで、喜々として演じてくれましたよ。完成した映画を観たときも、自分たちが映っているということで、感動してくれていましたね。
作品に文句を言う勢力は少なくない
――この映画は、フランスではなかなか作りづらかったそうですね。
ラジ・リ監督:もちろんこの映画がすべての人に受け入れられたわけではなくて。とくに“ネトウヨ”には嫌われています。まあ、彼らだってマイノリティーなんですけどね。この映画がアカデミー賞でフランス代表になったことに文句を言う人もいたし、この映画を観て不快に思った人もいる。しかし何よりこの映画が存在し、メッセージが伝わったことがいちばん重要なんです。
――日本でも、是枝裕和監督の『万引き家族』がカンヌ国際映画祭でパルムドールを獲得した際にも同じような反応がありました。
ラジ・リ監督:1年半前は、この作品ができるかどうかさえもわからなかった。お金を出資してくれる人が現れなかった。それでもこの映画を簡単には投げ出さないと思っていたんです。どんなに時間がかかったとしても、やり遂げるんだという強い意志を持ち続けました。
それが今、フランスでも大ヒットして、世界的にも評価されたわけですから。そうした人たちには「シャラップ(黙れ)」と言いたい気持ちですよ(笑)。
スティーヴ:諦めないというのは僕らのルーツから来ているんだと思う。僕らの中には、つねに戦うんだという精神がある。それは、そうしないと生き残れないというマインドだ。今は、昔とは状況が変わっていて、社会的に成功しないと悲惨な状況からは抜け出せない。成功するまでやり続けることは、僕らにとっては責務でもあります。
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