経済学者が解説「小売店の閉店」続く本当の理由 実のところ敵は「ネット通販」ではなかった

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サイバーソンとホタツは、わかりやすい例を挙げる。2013年までの14年間で、アマゾンの売上高が380億ドル増えたのに対し、コストコの売上高は500億ドル増え、ウォルマートの倉庫型店舗、サムズクラブの売上高は320億ドル増加した。成長率で見るとアマゾンが最も高いが、大半の小売店にとってアマゾンよりも大きな問題となったのは大型の実店舗だった。この傾向は2019年も続いた。

2.所得格差がますます拡大

所得格差の拡大によって、中流層の手に渡るカネが少なくなり、そのため、中流層を主な顧客としてきた小売店が苦戦している。ピュー・リサーチ・センターの推計によると、中流層世帯が稼いだ所得が全体に占める割合は、1970年には3分の2だったが、今では40%にまで下がっている。大手会計事務所、デロイトの報告書によると、小売店の中でも、高所得者と低所得者をターゲットとした店舗が成長しているのに対し、中流層を主な対象とした店舗はまったく成長していないというが、それも不思議はない。

高所得者層にカネが集中していくにつれ、小売業全体が苦しくなっていく。それは、所得が多い人たちは、自分の所得のかなりの割合を貯蓄に回すからだ。政府の家計調査では、階層別の支出を調べている。その最新のデータによると、所得の上位10%の層は、税引き後所得額の3分の1近くを貯蓄に回す。これに対して、中間層は所得の100%を支出する。したがって、中間層の所得が細っていき、トップにより多くのカネが回ると、全体としての貯蓄率が上がることになる。

小売業が痛手を受ける要因は経済学的な問題によるもの

3.モノよりサービスを買う

過去を10年ごとに区切って見てみると、アメリカ人が所得をモノに使う割合は減り続けており、サービスに使う割合が増えている。小売店もモールも、強大なオンラインストアさえも、売っているのは依然としてモノだ。政府の統計によると、消費者の健康関連分野への支出は、1960年には所得の5%だったが、現在では18%になっている。私たちは教育や娯楽、ビジネス関連のサービスなどにより多くを支出するようになっており、そうしたサービスは従来型の店舗では販売されていない。

この傾向は長年続いてきた。1920年には、アメリカ人は所得の半分以上を食品(38%)と衣料品(17%)に使っており、そのほとんどを従来型の小売店で購入した。しかし今日では、自宅内外で食べる食品に使うのは約10%で、衣料品支出はわずか2.4%だ。

経済学者は、なぜ人々がモノではなくサービスにカネを使うようになっているのかを議論するが、現実にその状況が起きていることを否定する人はいない。つまり、モノを売っている小売業者は、事業を続けていくためだけに、ますます必死で取り組まなければならなくなるということだ。

このように、小売業に痛手を与えているさまざまな力の拡大は、破壊的な技術というよりも、経済学的な問題だ。今後は、すべての小売業者がこうした問題を身に染みて感じるようになるだろう。たとえ、強力なアマゾンであっても。

(執筆:シカゴ大学経営大学院教授 Austan Goolsbee、

翻訳:東方雅美)

(C) 2020 The New York Times News Services

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