サンダース躍進で、民主党主流派はパニック 誰も過半数取れず、党大会にもつれ込みも

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近年の予備選開始時には、その話題性からも「競争による党大会」実施についてメディアや政治アナリストが憶測を立ててきた。だが毎回のごとく候補は党大会までに過半数を獲得して、もつれ込みは回避されてきた。

「競争による党大会」は深夜に煙に包まれる部屋で、葉巻をくわえた党のボスが少人数で話し合って次の大統領候補を決めるといったイメージで語られる。今日ではそうしたことはないが、1920年共和党予備選の党大会では初回で約7%の代議員しか獲得していなかったウォーレン・ハーディング候補が、そのような形で決められ、10回の投票を経てようやく公認候補に指名された、といったドラマが語り継がれている。

1回の投票で決まらない「競争による党大会」が最後に行われたのは1952年の民主党全国大会までさかのぼる。同大会では3回目の投票でようやくアドライ・スティーブンソン候補が指名された。なお、どの候補も過半数を獲得できない状態で党大会を迎えたのは1984年民主党予備選が最後だが、党大会ではウォルター・モンデール候補が1回目の投票で過半数を獲得した。

「競争による党大会」は民主的でない

「競争による党大会」はそもそも党のボスがエスタブリッシュメント候補を選ぶために作った非民主的な仕組みであったため、2020年民主党予備選では前回の反省からもエスタブリッシュメントが多い特別代議員は1回目の投票には参加できず、2回目から投票できるようにするといった改革が行われた。2016年大統領選の後、民主党全国委員会(DNC)がトーマス・ペレス委員長の下、結束改革委員会(URC)でサンダース候補を推すリベラル派の支持を得て2018年にこの改革を行った。

したがって、サンダース氏が予備選の過程で党大会前に誓約代議員の過半数を獲得できていれば1回目の投票で指名されることはほぼ間違いない。仮に誰も誓約代議員の過半数を得ていない場合、2回目投票から誰にでも投票できる特別代議員771人が投入され、サンダース氏が指名されない可能性も出てくる。穏健派の選挙陣営は「競争による党大会」を想定し、既に特別代議員にアプローチをかけているとも言われている。

だが、仮にサンダース氏が相対多数を獲得していて、党大会の2回目以降の投票でほかの候補が逆転した場合、サンダース氏は「民主主義に反する」とエスタブリッシュメントの勢力を強く批判するであろう。エスタブリッシュメントが有権者の意に反し「煙に包まれた一室」で大統領候補を決めたとの批判が起き、党大会は混乱に陥ると予想される。サンダース氏を熱狂的に支持する「バーニー・ブロ」などが、党大会の開催地ウィスコンシン州ミルウォーキー市をはじめ各地でデモ活動を展開することも懸念される。

仮にそのような党内分裂が鮮明化すれば、11月大統領選でトランプ再選を許し自滅することになる。

渡辺 亮司 米州住友商事会社ワシントン事務所 調査部長

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わたなべ りょうじ / Ryoji Watanabe

慶応義塾大学(総合政策学部)卒業。ハーバード大学ケネディ行政大学院(行政学修士)修了。同大学院卒業時にLucius N. Littauerフェロー賞受賞。松下電器産業(現パナソニック)CIS中近東アフリカ本部、日本貿易振興機構(JETRO)海外調査部、政治リスク調査会社ユーラシア・グループを経て、2013年より米州住友商事会社。2020年より同社ワシントン事務所調査部長。研究・専門分野はアメリカおよび中南米諸国の政治経済情勢、通商政策など。産業動向も調査。著書に『米国通商政策リスクと対米投資・貿易』(共著、文眞堂)。

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