ブラックロックが「脱炭素化」に本腰になる事情 金融機関に本格的に押し寄せる「ESG」の大波
一方、NGOの観点からみて問題点も見られる。例えば、一般炭の生産企業に限って具体的なダイベストメントの対象としていることは、脱化石燃料にまで踏み込んだゴールドマン・サックスと比べても不十分だ。
情報開示についても、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)が2018年に「1.5℃特別報告書」を発表して以来、世界標準になりつつある1.5℃シナリオではなく、従来からある2℃シナリオに基づく平均気温上昇を前提としていることが気になる。
しかし、世界最大の資産運用会社が、今後の気候危機のリスクについて詳述し、脱炭素社会への明確な展望を提示したことは、金融業界のみならず企業社会にも大きな影響力を及ぼすと考えられる。同社の表明を契機としてダイベストメントの動きが広まり、温暖化対策を金融面から加速させることが期待できる。
日本の金融機関も方針転換が急務
ひるがえって日本の金融機関はどうだろうか。3メガバンクはダイベストメント方針は発表しているが、例外を許容するなど実際のダイベストメントは遅々として進んでいない。国内の産業界に対する忖度があるのか、気候危機が企業の持続可能性に対する脅威であるという意識が薄い。
脱炭素社会への移行は、もはや確実に起こる未来である。企業はそれを無視したり、抗ったりするのではなく、ビジネス上のチャンスと捉え、経営戦略を再構築すべき時だ。金融機関は自社の経営のサステイナビリティーのためだけでなく、投融資先企業による低炭素社会への適応を支援するために、温室効果ガスの排出量の多い企業への投融資をやめることも必要であろう。
2019年秋に来日したアメリカのアル・ゴア元副大統領は、温室効果ガスの排出を地球環境に損害を与える「公害」であると明確に表現していた。ブラックロックのフィンクCEOの書簡には、「社会に損害を与える企業はいずれ自らの行為に対するしっぺ返しを受け、株主価値を棄損することになる。対照的に、強い企業理念を掲げ、ステークホルダーに真摯に向き合う企業は、顧客とより深くつながり、絶えず変化する社会の要求に適応できる。究極的には、企業理念が長期的な収益性の源泉となる」ともある。
日本の金融機関には、地球規模の企業理念を掲げることとともに、気候危機対策における世界のリーダーとしての思い切った行動が求められる。
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