ブラックロックが「脱炭素化」に本腰になる事情 金融機関に本格的に押し寄せる「ESG」の大波
日本の台風15号、19号による大規模な洪水、パリで42.6℃を記録した欧州の熱波、インドの大洪水、オーストラリアの森林火災――。
2019年は世界各地で自然災害が続き、地球温暖化への問題意識が格段に高まった1年だった。こうした状況は、金融業界にも大きな影響を及ぼしている。
アメリカのゴールドマン・サックスは2019年12月、アメリカの大手金融機関としては最も厳しい化石燃料融資方針を発表した。
同方針によれば、世界中の石炭採掘・生産への資金提供を取りやめる(ダイベストメント)ばかりでなく、北極圏での石油探査・生産への投融資もを行わない。地球温暖化対策として脱石炭の必要性が叫ばれているが、脱化石燃料にまで踏み込んだ方針と言うことができる。ゴールドマン・サックスは金融機関のダイベストメント宣言によく見られる、抜け道を確保した「条件付き削減」ではなく、「段階的な撤退」を明言した。
ブラックロックの姿勢はなぜ変わったのか
ゴールドマン・サックスに続き、イギリスの大手金融機関、スタンダード・チャータード銀行も石炭火力発電への投融資を厳格化すると発表した。同社はすでに2018年に新規の石炭火力発電への直接的支援を中止しているが、それに加えて、スタンダード・チャータードの顧客企業が石炭火力発電事業からの収益割合を10%以下に抑えない限り、既存案件も含めて段階的に投融資を取りやめていくという。
これにより、日本の3メガバンクなどが融資を検討しているベトナムのブンアン2石炭火力発電所についても、融資方針を見直すと見られている。
2020年に入り、さらにインパクトの強い発表があった。日本の国家予算の8倍、7.4兆ドル(約817兆円)の運用資産を有する世界最大の資産運用会社であるアメリカのブラックロックによるものだ。
同社のラリー・フィンクCEOは投資先企業のCEO宛ての年頭書簡で、「低炭素社会への移行は政府のリーダーシップのもとに進められるべきだが、同時に、企業や投資家にも果たすべき重要な役割がある」と述べ、ブラックロック自体が気候変動対策に前向きに取り組むことだけでなく、投資先企業にも積極的な行動を求めた。
リスク管理を徹底した長期投資を得意とする同社は、将来の社会のトレンドをさまざまな角度から予測して投資方針を決定している。しかしながら、2019年までの書簡では、ESG(環境、社会、企業統治)投資にも、気候変動リスクにもほとんど言及することがなかった。
例えば、2019年の書簡は、労働人口の35%を占め、「利益の創出」よりも「よりよい社会」を企業の存在意義と見ることの多いミレニアル世代が今後、企業の需要なポジションを占めることや、富がこの世代に移転して投資先企業に対する発言力を増すにつれ、ESG投資の要素がますます重要性を帯びるといったことを述べているにすぎなかった。
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