新宿に点在「昔ながらのカフェ」の変わらぬ魅力 仕事で使えるお店が多いのにはワケがあった

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但馬屋珈琲店は1964年開店。現在は新宿駅西口脇の飲み屋街、「思い出横丁」脇にある本店のほか、西口と南口周辺に3店舗を構える地域密着型チェーンで、吉祥寺にも支店を持つ。

本店は店に近づいただけで焙煎の香りが漂う。外も中も木の風合いを生かした作りは、それだけで価値がある。こちらも喫煙可で、カウンターの棚にはさまざまなカップが並んでいる。ケーキやトーストなども用意している。

但馬屋は地域密着型のチェーンだ(筆者撮影)

ジャズが流れる中、ひきたての豆を1杯ずつネルドリップで淹れたコーヒーを味わっていると、ここはなによりもまずおいしいコーヒーを楽しみ、コーヒーとともにある時間を過ごす場であることを教えられる。そして不思議と長居してしまう心地よさも、また印象に残る。

パソコンを広げる雰囲気ではなく、打ち合わせにもふさわしくない。ゆったりと過ごせるので、気分転換のためによさそうだ。業務用途ならば、筆者も打ち合わせで使ったことがある新宿南口店が向いている。ちなみに、新宿南口店は分煙になっている。

このほか新宿駅西口には、地下街の小田急エース、京王モールにもカフェがいくつかある。但馬屋珈琲店の系列である「シルエット」や、多店舗展開をしている「アマティ/亜麻亜亭」などが知られている。

ただ先日、小田急エース周辺を歩いていると、昨年秋まであった「炭火焼珈琲ツノハズ(角筈<つのはず>は、かつて新宿区にあった町名)」が閉店していることに気づいた。調べてみると、この数年で「珈琲店トップ」「アイコーヒー」など、西口の老舗カフェがいくつか店を閉めていることを知った。

チェーン店の進出が影響か

理由はいくつか考えられる。前述の地下鉄駅の開業もそうだし、スターバックスコーヒーを筆頭とするチェーン店の進出も影響を受けているはずだ。

地下街にある「シルエット」(筆者撮影)

しかも最近は、オフィス内にカフェスペースやラウンジなどを設ける企業が増えてきた。スタートアップが拠点を構えるシェアオフィスも、同じような作りが多くなっている。こうなると仕事中に外のカフェに行くという習慣は生まれにくい。加えて、オンラインでの打ち合わせが一般的になり、直近では新型コロナウイルス蔓延によってリモートワークが進みつつあるなど、働き方の変化もある。

ただし時代が変わっても、人が心地よいと感じる場所はさほど変わっていないとも思う。前述した2軒の老舗カフェはどちらも、独特の心地よさを感じた。ビジネスユースが減る中で、半世紀以上もの歴史を守り抜けている理由のひとつに、場の魅力があるのは間違いないだろう。

新宿西口は、建築家の坂倉準三の手による立体的な駅前広場があり、高層ビルも個性的な外観を持つものが多い。周辺では東京都や新宿区、そして小田急電鉄などによる再開発計画があるが、日本のひとつの時代を象徴する風景として継承してもいいのではないか。個性豊かな街並みの中で、老舗カフェは彩りを添える存在であり続けていけるはずだ。

『週刊東洋経済』2月29日号(2月25日発売)の特集は「外食 頂上決戦」です。
森口 将之 モビリティジャーナリスト

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もりぐち まさゆき / Masayuki Moriguchi

1962年生まれ。モビリティジャーナリスト。移動や都市という視点から自動車や公共交通を取材。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。著書に『富山から拡がる交通革命』(交通新聞社新書)。

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