ボルネオで奇跡の復活「元名鉄特急」数奇な歩み 北アルプスから会津へ、そして南国の島へ

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ただ、ほとんどの区間で本来の高速性能を必要せず、機器の劣化を招いたことなどを理由に、2010年には後継車両に置き換えられる形で引退してしまった。それでも、日光―会津という新たな回遊ルートを示したという点では、この車両が残した功績は大きい。

鉄道ファンの視点では、元名鉄の車両が東武線や、はたまたJR東日本の線路を走るということで大いに注目を集めた。本来の性能をいかんなく発揮した磐越西線内での飛ばしっぷりは、今でも筆者の記憶の中に強く印象付けられている。

会津鉄道での役目を終えた4両(中間車の1両は会津鉄道時代に廃車解体済み)は売却先が公募され、2両が那珂川清流鉄道保存会(栃木県)に、2両が個人の手に渡った。

個人に売却された2両、「8502」と「8503」は、折しも東日本大震災の後ということもあり、車両輸送上の問題などから会津若松市内の観光施設の駐車場で当面の間保管されることとなった。ただし、あくまでも暫定的な保管であり、2014年の夏には観光施設での保管期限を迎え、安住の地を見つけらない場合は解体という事態に直面した。

風雨にさらされる屋外保存は、数年も経てば車両の劣化も進む。保管場所の移動はまだしも、動態復帰を果たすとは想像もつかなかった。

ボルネオ島に渡った2両

しかし、この2両は思いもよらない場所で営業運転に復帰することになる。向かった先はマレーシア・サバ州だ。

聞きなれない地名であるが、マレーシア、ブルネイ、それにインドネシアと3カ国にまたがるボルネオ(カリマンタン)島の北部に位置するのがサバ州である。日本人にはコタキナバルと言ったほうがピンと来る人が多いかもしれない。コタキナバルはサバ州の州都であり、ボルネオ島随一のリゾート地でもある。

キハ8500系が渡ったのは、この地を走るサバ州立鉄道だ。

サバ州立鉄道に渡ったキハ8500系。山間を行く姿はまるで会津鉄道時代のようにも見える(筆者撮影)

マレーシアの鉄道といえばマレーシア国鉄(KTM)だが、サバ州の鉄道は別組織が運営している。これは歴史的経緯から、ボルネオ島内の各州はマレー半島側からはやや独立した自治形態をとっているためで、入国管理も独自に行われている。

日本語ではサバ州立鉄道と紹介されるが、塗装変更後のキハ8500系車体に描かれたロゴマークにある通り、正式名称はJKNS:Jabatan Keretapi Negeri Sabah、直訳すればサバ国鉄道部門、あるいはサバ政府鉄道部門となり、サバ州の強い権限を示しているとも言える。

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