吉野家玉ねぎ4倍「ねぎだく」人気の深いワケ 新スタイルの店舗「黒吉野家」で女性客を狙う

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これらを実現するため、機械化、AI化による効率化や労働環境アップも図っている。25ブランド(うち1ブランドは自社プリペイド)に対応するキャッシュレスも一役買っているようだ。「チームサービスコンクール全国大会」や「肉盛り実技グランドチャンピオン大会」といった接客・調理技能向上の取り組みも継続していく。

冬期の人気商品、牛すき鍋。写真はご飯と玉子、漬け物つきの「牛すき鍋膳」(写真:吉野家)

力を入れているのが、イートインの価値向上だ。例えば2013年にスタートした季節の商品が牛すき鍋膳(並盛税抜648円)。固形燃料でアツアツの状態で提供する手法が人気の理由という。

「また、毎年少しずつブラッシュアップすることで『やっぱりおいしい』と感じていただけているのかなと思います。例えば現在の牛すき鍋膳は、2013年当時のものに比べ野菜を増量し、たれもうまみが増して本格的になっています。お客様の好みの変化に合わせて変わってきたということでしょう」

こうした季節商品の常ではあるが、毎年、時期が来るのを心待ちにしているファンもいるそうだ。販売期間は2月下旬までを予定している。

1月29日から販売スタートしたW定食(税抜き698円)。写真は牛カルビとの組み合わせ。ご飯増量・おかわり無料サービスと組み合わせると最強だ(筆者撮影)

さらに、1月29日からは定食を強化する3つの方策を打ち出した。牛皿ともう1品をお得に食べられる「W定食」や、定食のご飯増量おかわり無料、期間限定ではあるが、夜の時間帯に10%割引になる「夜割」だ。イートインや、「ちょい飲み」需要に代わる夜間帯の増客につなげる。

女性・ファミリー層に「黒吉野家」戦略

さらに、具体的に店舗空間そのものの刷新も図っている。社内では「C&C(クッキング&コンフォート)」と呼ばれているそうだが、一部、巷間では「黒吉野家」とも噂されている店舗がそれだ。

「従来の、店の中央に馬蹄形のカウンターを備えたスタイルは、居心地という面でデメリットとなります。やはりとくに女性のお客様に、『食べているとき向かいの人から見られるのがイヤ』という方が多い。そこでテーブルとソファを設えたり、ドリンクサーバーを備えた居心地を重視した店舗に入れ替えを図っています」

「黒吉野家」と呼ばれる、新スタイルの店舗(写真:吉野家)

揚げ物やスイーツなどもそろえ、アイドルタイム利用も狙う。毎年80〜100店舗の割合で入れ替えを図っているそうで、最終的には、半数弱の約500店舗がこのスタイルになる。またスペースの関係で難しい店舗に関しても、馬蹄形ながら前方の客と目が合わないパーソナル空間を重視したスタイルに変更していく予定だ。

「ファミリーと女性をターゲットとした戦略です。女性の社会進出が進み、一方で今後人口は減少して、胃袋は減っていく。これまでは男性が中心だった当社のようなチェーンでは、いかにファミリーと女性を取り込めるかが重要になってきます」

男性中心の、市場のお客相手から出発した同チェーン。120年を経た変化は、そのまま日本社会の変遷だとも見てとれるだろう。ねぎだく牛丼の復活に、同社が守ってきたもの、そして変わっていくものが図らずも表れているようだ。

圓岡 志麻 フリーライター

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まるおか しま / Shima Maruoka

1996年東京都立大学人文学部史学科を卒業。トラック・物流業界誌出版社での記者5年を経てフリーに。得意分野は健康・美容、人物、企業取材など。最近では食関連の仕事が増える一方、世の多くの女性と共通の課題に立ち向かっては挫折する日々。contact:linkedin Shima Maruoka

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