東京高検検事長の「定年延長」、その本当の狙い 露骨な介入で脅かされる検察の政治的中立性
こうした状況について、弁護士出身の枝野幸男・立憲民主党代表は「何がなんでも(黒川氏を)検事総長にするためだとみんな思っている。首相を逮捕するかもしれない機関に官邸が介入するなんて、法治国家としての破壊行為だ」と批判をエスカレートさせた。しかし、政府側は「悪質なレッテル貼り。言わせておけばいい」(官邸筋)と冷笑するばかりだ。
ただ、司法専門家の間でも「今回の黒川氏の定年延長については、疑問点が多い」とする見方が少なくない。森法相らは「国家公務員法では、職務の特殊性や特別の事情から、退職により公務に支障がある場合、1年未満なら引き続き勤務させることができると定めている」と説明する。これに対し、専門家らは「検察庁法22条は『検事総長は、年齢が65年に達した時に、その他の検察官は年齢が63年に達した時に退官する』と定めており、検察官は勤務延長の対象外というのがこれまでの常識」と指摘する。
与党内から「いくら何でもやりすぎ」の声
さらに、定年延長の理由とされるゴーン被告脱走事件についても、「捜査の実務は東京地検の担当で、外国との交渉は法務省で行うので、東京高検が関与する余地はまったくない」(元東京地検特捜部の弁護士)と疑問視する声が支配的だ。
これまで安倍政権下では、小渕優子・元経済産業相の公選法・政治資金規正法違反事件や甘利明・元経済再生担当相(現自民党税調会長)の収賄疑惑などで、「有力政治家などはことごとく不起訴となってきた」(立憲民主党幹部)。だからこそ、与党内でも「いくら何でもやりすぎ」(自民長老)との声が出るのだ。
今回の経過を「官邸による恣意的人事との臆測が広がることで、警察も含めた司法全体に『政権の圧力』を感じさせるのが本当の狙い」(閣僚経験者)との見方も出ている。2019年10月、公選法違反疑惑などで菅原一秀・前経済産業相と河井克行・前法相が閣僚辞任に追い込まれ、それぞれに対する司法当局の捜査は現在も進行中だが、野党側は「今回の人事を受けて、現場の検察官が官邸に忖度して当該議員への捜査に手心を加える可能性も否定できない」(共産党幹部)と指摘する。
官邸サイドからは「半年後に黒川氏が検事総長にならなければ、人事介入疑惑は雲散霧消する。その時点で7月30日に63歳となる林氏も含めて退官させて、検事総長人事の若返りを図れば、国民の不信感も払拭できる」(政府筋)との声も漏れる。このため、与党内では「あえて官邸人事の威力を匂わせて霞が関官僚を萎縮させたうえで、結果的に肩透かしすることで国民の批判も封じる、という極めて巧妙な手法」(自民幹部)と解説する向きも少なくない。
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