東京高検検事長の「定年延長」、その本当の狙い 露骨な介入で脅かされる検察の政治的中立性
政官界が注目する次期検事総長については、2019年暮れから水面下での人選が進んでいた。法務省が示した黒川、林両氏を軸とした複数の候補について、官邸側が黒川氏の起用を求めたことが、今回の「駆け込み人事」につながったとされる。
2018年夏に就任した稲田伸夫検事総長(63)は、慣例に従って2020年夏に約2年の任期で勇退するとみられている。その場合、序列から言えば検察ナンバー2となる東京高検検事長の黒川氏の昇格が順当だが、63歳定年によって「黒川氏は脱落し、(7月30日に63歳となる)林氏が滑り込みで検事総長に就任する」(法務省幹部)との見方が多かった。
同じタイミングでIR汚職捜査が終結
それだけに、あえて国家公務員法の定年延長の規定を援用した今回の定年延長措置が、「黒川検事総長実現のために官邸が使った裏技」(立憲民主幹部)との臆測につながった。もちろん、検事総長の人事は最終的に政府が決めるものだが、三権分立を堅持して法務・検察の政治的中立性を担保するために、これまでは「政界捜査を指揮できる検察トップの人事は、政治色を排除する聖域」(閣僚経験者)と位置づけられてきた。
このため、野党だけでなく与党内からも「官邸の露骨な人事介入とみられれば、政権への国民不信にもつながる」(自民長老)との声が出た。検察は2019年暮れにIR汚職事件で約10年ぶりに現職国会議員の逮捕に踏み切り、与党内でも「自民大物議員にも捜査の手が伸びて疑獄事件になるのでは」(公明幹部)との不安が広がっていた。
しかし、黒川氏の定年延長決定とタイミングを合わせたように、秋元司衆院議員(元内閣府IR担当副大臣、自民を離党)の収賄事件として捜査が事実上終結し、「事件の拡大を嫌がる官邸への忖度(そんたく)」(共産党幹部)との臆測を広げた。
2月3日から始まった2020年度予算案の審議でも、立憲民主など主要野党が「恣意的な人事」と追及した。これに対し、森雅子法相はゴーン被告脱走事件を念頭に「重大かつ複雑、困難な事件の捜査・公判に対応するため不可欠な措置」と説明。主要野党は「政権による違法、脱法行為にしかみえない」と攻勢を強めたが、森法相は「一般法の国家公務員法の適用で、違法ではない」と繰り返し強調し、首相も「法務省としての人事を閣議で決定したもの」と介入を否定して、論議は水掛け論に終わっている。
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