Facebookを去った「もう1人のザッカーバーグ」 「富や名声」よりも人生で大切なことを考えた

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2011年4月には、あのホワイトハウスから電話がかかってきた。「オバマ大統領が市民との対話集会でフェイスブック・ライブを使いたがっている」と。しかもオバマはこのプラットフォームをとても気に入り、ホワイトハウスはそれ以後、国内の重要な情報を週に1回、フェイスブック・ライブで配信し始めたのだ。

そうしたフェイスブック・ライブへの貢献が認められ、数カ月後、私はエミー賞【注:アメリカの優れたテレビドラマや映像関連の功績に対して贈られる賞】の候補になった。

でも、それより心が躍ったのは、フェイスブックが世界の全ユーザー(20億人以上!)に、「ライブ動画」のアイコンを提供しだしたときだ。それは、私が空き時間にふと思いついたアイデアから生まれたもので、やがてフェイスブックの存在意義自体をも大きく変えることになった。

フェイスブックを去った今でも、マンハッタンの中心部でフェイスブック・ライブの広告を目にしたり、だれかが「フォロワー」や「友達」に直接話しかけるのを見たりするたびに、私は「世界の何十億という人々が日常的に使うようなものを発明したのだ」と、誇らしさで胸がいっぱいになる。あえて狙ったわけじゃない。

けれども、私はもう1人の、自分よりはるかに有名なザッカーバーグが率いる会社に、私自身の足跡を残したのだった。

私の夢はフェイスブックにあるの?

思うに、それがちょっとしたスイッチとなったのだろう。本来「息抜き」だったはずの仕事がどんどん増え、私は本業と副業のどちらかに集中するか、あるいはどちらもやって私生活を失うかの選択を迫られた。

スタートアップで、この手の問いに対する答えはただ1つ。私生活は捨てろ、だ。

あのころ、「バランスが取れている」という言葉は、私の語彙に存在さえしなかった。巨大な成功が約束された仕事、あらゆる業界やものごとにとてつもない影響を及ぼす仕事を手がけるチャンスを得たら、人はバランスなど考えない。

私の場合も、仕事が生活そのものだった。その状態でまる7年働き続けた。仕事で出かけた国は年に20カ国以上。長男を産む直前の週にも3日連続で徹夜し、オバマ大統領のフェイスブック・ライブの配信準備をした。

フェイスブックで働くのは好きだった。でも、しだいに私は気づき始めた。スタートアップにいても、自分が夢のスタートアップを実現できるわけではないのだと。スタートアップで働くことは、だれか(それが家族でも)の夢にアンバランスになることにほかならない。

優れたリーダーは、自分のビジョンを情熱たっぷりに語ることができるので、それを見た大勢の人は、自然とリーダーのビジョンでアンバランスになる。でも私は、自分自身がアンバランスになりたいものへの情熱や夢を捨てきれなかった。私を突き動かしていたのは、ほかのだれかのビジョンではなかったのだ。

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