エマニュエル・トッド 歴史人口学者・家族人類学者--もし自由貿易が続くなら民主主義は消えるだろう

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 世界中の指導者が「自由貿易は問題だ」と認識し、協調という考え方のメカニズムに理解を示せば、国家間の利害は一致するはず。各国が考え、熟慮し、話し合う。それが協調的という意味です。

WTO(世界貿易機関)にしても、その目的は、単に自由貿易の促進を図ることであってはなりません。話し合いの場であり、需要を喚起するために世界経済を小さくブロック化し、再セグメント化する場なのです。もちろん交渉は、力関係に左右されます。欧州は、中国に対欧輸出の抑制を求め、内需拡大に力を注ぐように求めます。米国に対しては貿易収支の均衡を要求するでしょう。

--民主主義の崩落危機を止めるには保護主義が必要だとの見解は、経済学者とは異なる、歴史学者としての考察から導いた論だと……。

エコノミストの問題点は、歴史を理解していないことです。イギリスの歴史家のケインズは「歴史家に経済を理解させるのは、エコノミストに歴史を理解させるよりもたやすい」と述べています。エコノミストが考えているのは一時的な世界。歴史家は事象の連続性を考察します。

市場の開放性、自由貿易市場は第2次世界大戦後、特に1950年から70年にかけて進みました。そのときは問題なかったのですが、最後に否定的な側面が現れてきた。それを問題にしているのです。

政治的な自由主義と経済的な保護主義の併存、それはフランスの第3共和制下で見られました。米国政府で自由貿易を憲法に明記していたのは、南北戦争時の南部の政府だけです。自由貿易は歴史的に見ると、逆に権威主義的な不平等の時代に結び付いているのです。

保護主義の世界では、民主主義システムの政権担当者は、生活水準と中産階級が大変重要だと考えます。一方、現在の民主主義の危機は自由貿易の危機です。エリートは人々の生活水準に関心を持とうとしません。現在の民主主義は、ウルトラ・リベラルな民主主義であり、エリートが人々の生活水準の低下をもたらしているように見えます。

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